ドイツ銀行が取り組む、デジタル化とスタートアップへの投資の推進

ドイツ銀行が取り組む、デジタル化とスタートアップへの投資の推進

ドイツの2大メガバンクの一つであるドイツ銀行は、2015年の経営不振のさなかに38億ユーロのコスト削減と35,000人の解雇を含む向こう5年間の戦略「Strategy 2020」を発表し、現在、改革のまっただ中にある。

この戦略の柱の一つに「テクノロジーの採用」があり、同行はDigitalisierung und Banking 4.0というスローガンのもと、デジタル化、行内のシステムおよび業務の効率化を目指し、スタートアップへの投資にも積極的に取り組んでいる。ここではドイツ銀行のデジタル化の最新動向を紹介する。

ドイツ銀行で進む、行内のデジタル改革

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(写真=Vytautas Kielaitis/Shutterstock.com)

ドイツ銀行の戦略「Strategy 2020」では、デジタル改革によるコスト削減を目指している。同行は具体的な施策として、複雑化した行内のITシステムの改修、業務プロセスの簡素化および自動化、顧客サービスのデジタル化をあげている。

ドイツ銀行内のITシステムは急速なIT化により複雑化し、2015年の時点では45ものオペレーティングシステムが存在していた。これを2020年までに4つまでに削減し、古くなったソフトウェアやハードウェアの交換も行う。一方で仮想化やプライベートクラウド利用の割合を増やし、合計で8億ユーロのコスト削減を目標として掲げている。

業務プロセスにおいては、これまで手作業で行っていた処理を自動化し、機械学習や人工知能といった先端技術を取り入れることで人手によるミスを防ぎ、処理のスピードアップと効率化を図る。特に顧客の身元確認やマネーロンダリングの検証のためのインフラに優先的に投資を行うという。加えてこれまでバックオフィスで行われてきた業務の自動化も進めている。

人員削減によるコスト削減という点では、ドイツ銀行は国内で723の支店を設けて800万の顧客にサービスを提供していたが、支店数を535に減らし、関連するフルタイムの従業員2,500人を解雇するという計画を2016年に発表した。代わって7億5,000万ユーロを投資し、顧客にモバイルバンキングやデジタルアドバイザリーサービスといった新しいかたちのサービスを提供する。

2016年には開発や銀行業のスペシャリスト400人を集め、新しいプロダクトやサービスを開発する拠点・digital factoryを金融街フランクフルトに開設した。

ドイツ銀行はこのような行内のIT改革と合わせて、フィンテックスタートアップへの投資を行い、新技術への理解を深めると共に協業を進め、行内のIT化や顧客に提供するデジタルサービスに活かそうとしている。

ドイツ銀行のスタートアップへの投資

続いて、ドイツ銀行のオープン・イノベーションにおける取り組みを紹介しよう。

ドイツ銀行は、古くは1998年設立の、Deutsche Venture Capital(DVC)というCVCによりスタートアップへの投資を行ってきた。投資先の企業は金融やIT分野に限らず医療やバイオまで幅広く、20社への投資に対し9社のエグジットに成功したが、2012年を最後にDVCによる投資は行われていない。

すでに大企業となったTeslaやDropboxなどへの投資を含め、ドイツ銀行としての投資は続いている。ただ、同行の業務とシナジーを発揮することを目的として、フィンテックスタートアップの支援や投資に乗り出したのはここ数年のことだ。DVCのようなCVCを設立して投資を行うというよりも、ドイツ銀行としてスタートアップ支援に関わり、オープン・イノベーションにつながる新技術に対する理解を深めようとしている。

初期に着手したのが「Innovation Lab」と呼ばれる拠点作りだ。2014年からスタートアップ、研究者、ベンダー、ベンチャーキャピタルを橋渡しするプラットフォームとして新技術の発掘に努め、ベルリン、ロンドン、シリコンバレー、ニューヨークにオフィスを開設し、これまでに2,000のアイデアやサービスを検討してきた。ベルリンのInnovation Labの担当者は成功事例としてアイトラッキングの技術を開発する「Eyevido」をあげた。ドイツ銀行のデジタルサービスでの、ユーザーエクスペリエンス向上に寄与する可能性があるとしている。

アクセラレータプログラムとの提携にも取り組み、2016年にドイツの「Axel Springer Plug and Play」と銀行・保険の分野で、2017年にはイタリアの「H-FARM」とブロックチェーンの分野で提携することを発表した。Axel Springer Plug and Playとの提携では、ドイツ銀行はスタートアップの選定に携わり、コンサルティングやワークショップの開催に加え、Innovation Labやフランクフルトのdigital factoryといったスペースも提供するという。

2016年にはハッカソン「API/Open」を開催し、優勝した人工知能ベースのファイナンシャルアドバイスサービス「Finanzguru」に対して、ベンチャーファンド「Digi-Venture-Fonds」から約100万ユーロを出資し、株式を25%取得している。これはDigi-Venture-Fondsの初めての出資事例である。ドイツ銀行とFinanzguruは3ヵ月にわたって協業の可能性を探ったのち提携を決定し、ファイナンシャルアシスタントアプリを提供するに至った。

このようなドイツ銀行のスタートアップ支援や、同行を含むスタートアップエコシステムを構築しようとする取り組みは、デジタル化によるコスト削減を目指すだけでなく、最新のデジタルサービスを活用して顧客ニーズに応えようとするものだが、その目的に向けてオープン・イノベーションに積極的に取り組み、改革を推進したいという思惑がうかがえる。

ドイツ銀行は今後、どのようにスタートアップへの支援を加速するのか

Innovation Labの開設は2014年と比較的早い時期に行われているが、アクセラレータプログラムとの提携やDigi-Venture-Fondsによる投資は始まって間もないものであり、今後取り組みの成果が発表されていくことだろう。

主催したハッカソンでのFinanzguruの発掘、Digi-Venture-Fondsによる投資、パートナーシップの確立という流れが生まれてきている。スタートアップのアイデアや技術を自社のプロダクトにつなげるプロセスとして、今後オープン・イノベーションを通じて、デジタル改革を実現するうえでの参考になる成功事例といえるだろう。

2018年はStrategy 2020の中間年にあたり、これまでの進捗状況が数値としても発表される。現在、行内の効率化やコスト削減に貢献する技術を取り入れたサービスが、Innovation Labや提携するアクセラレータプログラムから生まれることが期待されている。ドイツ銀行のStrategy2020の行方に注目したい。(提供:MUFG Innovation Hub

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Source: 株式投資
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