【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(5月号)~輸出は好調も、旧正月の影響を均せば増勢鈍化
【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(5月号)~輸出は好調も、旧正月の影響を均せば増勢鈍化
18年3月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て通関ベース)は前年同月比10.5%増(前月:同8.6%増)と、二ヵ月ぶりの二桁増となった(図表1)。輸出は昨年、海外経済の回復や半導体需要の増加、一次産品の価格上昇が全体を押し上げ、総じて好調に推移している。今年に入り旧正月の影響で上下に振れているが、1-3月平均で見ると前年同期比13.7%増と高水準ながら、10-12月平均の同16.2%増からは低下している。輸出の増勢はベース効果などから鈍化しつつあるようだ。
ASEAN5カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、東アジア向け(同7.4%増)が小幅に低下したものの、東南アジア向け(同9.3%増)と北米向け(同15.7%増)、EU向け(同8.2%増)がそれぞれ上昇した(図表2)。旧正月の影響で上下に振れているが、総じてアジア向けが堅調な拡大を続けるなか、足元では北米向けが拡大し、EU向けの増勢は鈍化する傾向にある。
タイの18年3月の輸出額は前年同月比7.1%増と、前月の同10.3%増から低下した。輸出の基調は、海外経済の回復を背景に需要が拡大した電子機器、また価格が上昇した石油製品を中心に増加傾向を維持しているが、これまで好調だった工業製品や農産品が鈍化するなど輸出の増勢はピークアウトしたかに見える。一方、輸入額が前年同月比9.5%増(前月:同16.0%増)と低下した結果、貿易収支は12.7億ドルの黒字となり、前月から4.6億ドル改善した(図表3)。
輸出を品目別に見ると、全体の約8割を占める主要工業製品は同7.7%増(前月:同11.5%増)となり、8ヵ月ぶりの一桁台まで鈍化した(図表4)。工業製品の内訳を見ると、石油化学製品(同13.5%増)と電子機器(同15.7%増)が高水準を記録した一方、自動車・部品(同3.9%増)と機械・装置(同0.2%減)が低調だった。また鉱業・燃料は同49.8%増(前月:同34.6%増)と、石油製品を中心に8ヵ月連続の二桁増となった。農産品・加工品は同3.3%減(前月:同0.3%増)とマイナスとなった。コメ(同8.5%増)こそ高めの伸びを続けたものの、天然ゴム(同50.2%減)、ゴム製品(同24.3%減)が大幅に減少、加工食品(同4.8%増)も伸び悩んだ。
ベトナムの18年3月の輸出額は前年同月比23.2%増と、前月の同9.5%増から上昇し、二カ月ぶりの二桁増となった。輸出は16年後半に主力の電気・電子製品が勢いを取り戻してから政府目標(17年が+6-7%、18年が+7-8%)を上回る伸びが続いているが、昨年10月に増勢はピークアウトしたかに見える。3月の輸出はサムスン電子の新型スマートフォン発売を背景に好調だったが、今後はベース効果により伸び率は鈍化傾向を辿ると見込まれる。一方、輸入額も前年同月比2.4%増(前月:同7.3%減)と上昇してプラスに転じた。結果として、貿易収支は前月の22.6億ドルの黒字となり、前月から19.6億ドル改善した(図表5)。
輸出を品目別に見ると、まず輸出全体の約2割を占める電話・部品が同70.8%増(前月:同44.2%増)と高水準を記録したものの、コンピュータ・電子部品は同1.2%増(前月:同0.9%減)と引き続き低調だった。アパレル関連では織物・衣類が同11.3%増(前月:同18.9%増)とやや鈍化したが、履物が同9.6%増(前月:同2.7%減)と上昇した。農産品では野菜(同15.1%増)やカシューナッツ(同24.6%増)が好調に推移したほか、前月に減少したコーヒー(同1.8%増)とコメ(同49.1%増)がプラスに転じた。一方、コショウ(同47.8%減)やゴム(同17.3%減)などは大幅に減少しており、農産品は品目毎のバラツキが大きい。
輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同26.5%増(前月:同12.5%増)、地場企業が同15.4%増(前月:同2.4%増)と、それぞれ大きく上昇した。
マレーシアの18年3月の輸出額は前年同月比16.2%増と、前月の同11.3%増から再び上昇し、9ヵ月連続の二桁増となった。輸出の伸び率は、前月こそ中華圏の旧正月の影響でやや伸び悩んだものの、半導体需要の増加や通貨リンギ高の影響で好調に推移している。一方、輸入額も前年同月比2.7%増と、前月の同10.4%増から更に低下した結果、貿易収支は37.6億ドルの黒字と、前月から14.5億ドル改善した(図表7)。
輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同24.4%増(前月:同13.1%増)と、主力の電気・電子製品(同23.6%増)を中心に大きく上昇した(図表8)。また化学製品が同21.9%増(前月:同9.5%増)と上昇したほか、動植物性油脂が同5.5%増(前月:同12.7%減)とパーム油を中心にプラスに転じた。一方、鉱物性燃料は同4.2%増(前月:同21.6%増)と鈍化した。天然ガス(9.9%増)と原油(同34.6%増)こそ好調だったが、石油製品(同3.9%増)が伸び悩んだ。
インドネシアの18年3月の輸出額は前年同月比6.1%増(前月:同12.0%増)と低下した。輸出の伸び率は世界経済回復による需要拡大とコモディティの価格上昇を受けて堅調に推移してきたが、足元では主力の輸出品であるパーム油やゴム製品、電気機械が落ち込み、全体では伸び悩んできている。一方、輸入額は前年同月比9.1%増(前月:同24.9%増)と鈍化した結果、貿易収支は10.9億ドルの黒字と、前月から11.4億ドル改善して4カ月振りの黒字となった(図表9)。
輸出を品目別に見ると、石油ガスが同11.5%減(前月:同16.1%増)と落ち込んだものの、全体の9割を占める非石油ガスが同13.4%増(前月:同13.9%増)と好調を維持した。非石油ガスの内訳を見ると、まず輸出全体の7割を占める製造品が同2.3%増(前月:同4.9%増)と伸び悩んだ。製造品では、機械類(同4.0%増)が若干上昇したものの、主力の動植物性油脂(同17.3%減)とゴム製品(同30.8%減)、電気機械(同6.6%減)がそれぞれ減少した。また農産品は同3.2%減(前月:同16.6%減)と野菜製品を中心に引き続きマイナスとなった。一方、鉱業品は同45.0%増(前月:同68.3%増)と鉱石、スラグ及び灰を中心に好調が続いた。
シンガポールの18年3月の輸出額(石油と再輸出除く)は前年同月比3.9%増(前月:同0.2%増)となり、旧正月の影響で鈍化した2月から小幅に上昇した。輸出は主力の電子製品と医薬品が上下に振れているが、石油化学製品を中心に総じて増加傾向を維持している。なお、総輸出額が前年同月比6.0%増と前月(同6.0%増)から横ばいとなった一方、総輸入額は同6.5%増(前月:同12.2%増)と低下した。結果として、貿易収支は44.5億ドルの黒字と、前月から11.7億ドル改善した(図表11)。
輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約3割を占める電子製品は同0.7%減(前月:同6.5%減)と引き続きマイナスとなった(図表12)。電子製品の内訳を見ると、PC(同33.0%増)が好調を維持、通信機器(同13.6%増)がプラスに転じる一方、主力のIC(同0.1%増)が奮わず、PC部品(同47.9%減)とダイオード・トランジスタ(同19.4%減)は落ち込んだ。また電子製品と同じく全体の約3割を占める化学は同10.5%増(前月:同0.6%減)と大きく上昇した。化学製品の内訳を見ると、医薬品が同5.0%増(前月:同1.5%減)、石油化学製品が同5.4%増(前月:同6.7%減)と、それぞれプラスに転じた。
フィリピンの18年3月の輸出額は前年同月比13.4%減と、前月の同1.8%減から一段と減少した。輸出は主力の電子製品こそ堅調に拡大しているものの、通貨ペソ安の影響などから全体では昨年後半から伸び悩み、足元ではマイナス圏に突入している。一方、輸入額は前年同月比4.1%減(前月:同18.6%増)と大きく低下した結果、貿易収支は27.2億ドルの赤字となり、前月から3.4億ドル赤字が縮小した(図表13)。
輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の約5割を占める電子製品は同6.8%増(前月:同4.6%増)と上昇し、底堅く推移している(図表14)。電子製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同2.6%増)が低調だったものの、電子データ処理機(同10.9%増)と計測制御機器(同7.1%増)が堅調に拡大した。その他9品目は総じて減少した品目が多かった。精錬銅(同8.1%増)と電子機械・部品(5.8%増)が増加した一方、機械・輸送用機器(同44.6%減)や金(同33.8%減)、ココナッツオイル(同30.3%減)、イグニッション・ワイヤーセット(同28.9%減)、その他製造品(同24.5%減)、その他鉱物製品(同21.5%減)、金属部品(同1.5%減)が減少した。
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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員
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Source: 株式投資