グローバル(G)米国で緩やかな利上げが許容される一つの理由

グローバル(G)米国で緩やかな利上げが許容される一つの理由

シンカー: 3月のFOMCでは、これまでよりタカ派色が強まると懸念されてきたが、FRBの新しい政策金利見通しは、2018年-2020年の合計で、従来より1回だけ利上げ回数が増えるにとどまった。緩やかな利上げが許容されているのは、現在の景気拡大が、企業の投資行動の拡大よりも、家計の消費行動の回復に支えられているからだ。2017年10-12月期の資金循環統計では、家計貯蓄率(GDP対比、4四半期移動平均)は+1.8%となり、1年前の+4.1%から大幅に低下している。これまで雇用環境が大幅に改善しても、家計の不安は解消せず、貯蓄行動が強かったが、変化がみられる。一方、企業貯蓄率は+0.3%と、1年前の-1.1%から上昇し、資金に余剰感があり、自社株買いなどを続けている。金利を急に引き上げて、ブレーキをかけなければならないような過熱感はない。一方、金利引き上げは、ストックの資産保有者である家計にはプラスであることが多く、フローの貯蓄率がマイナスにならないかぎり、消費活動の強いブレーキにはならない可能性がある。緩やかな利上げでも、景気過熱は回避されながら、緩やかな回復がしばらく続くのがメインシナリオだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

最新のSGグローバル・レポートと要約

米国経済(3/22): 3月FOMC…まったく穏やかな内容

3月20、21日のFOMCでは、従来よりもタカ派色が強まると懸念されていた(とくに、パウエルFRB議長の議会証言やブレイナード理事の最近の講演を考えると)。だがFRBの新しい政策金利見通しは、2018-20年の合計で、従来見通しより1回利上げ回数が増える(これは弊社見込みと同じ)に留まった。実際にも、FOMC参加者の経済見通し(SEP: SUMMARY OF PROJECTIONS)は弊社見込みと非常に近い内容だった。

変更後のSEPでは、失業率が過去50年で最も低い実績と同水準に引下げられ、GDP成長率も上方修正されていたが、インフレ率はほとんど引上げられていなかった。とはいえ(政策金利見通しを示す)ドットチャートの分布は明らかに上方シフトしている。今後の経済指標で正当化されるなら、中間値が上昇するのにさほど時間はかからないとみられる。ただ弊社は現時点では、2018年中は25BP利上げが6月と9月のあと2回実施される、という見方を継続する。

世界経済(3/16): 世界経済見通し(2018年Q2号):世界景気拡大、より高いレベルに

弊社の 2018 年 GDP 成長率予測は、ユーロ圏は 2.5%でコンセンサスを 0.2PP 上回っているが、世界全体は現時点のコンセンサスと同じである。このことだけを基にすると、GDP 成長率予測の水準は、最高に達したと考えたくなる。現時点では、GDP 成長率予測の方向性が逆転する(下方修正基調に転じる)と考える理由はほぼ見当たらない。だが、足元の予測中間値には、米国と英国はある程度、(中国、インド、一部の中南米諸国を含む)他の国にも米英よりは限定的だが、それぞれ下振れリスクがある。

現時点で弊社予測とコンセンサスに差があることを別にして、世界の景気拡大モメンタムが頂点に達したと考えられる可能性を示す証拠も、一時的に出ている。様々な景況感調査は 2017年末から 2018 年初にかけて、安定しつつある、または緩やかに後退しているとみられる。確かに、こうした証拠はまだ暫定的で、最近の結果は 2018 年初の世界的な株式市場ショック(本稿執筆時点では、一時的・短期的だったとみられる)に影響されたためかも知れない。また多数のセンチメント指標が、過去のパターンを基にすると GDP 成長率が直近実績を上回ると示唆している(と考えられる)水準まで上昇している。この意味では、こうしたサーベイ結果の小幅減速は、必ずしも景気減速の予兆ではないと い える。しかしながら、景気モメンタムは、今後さらに強くなるというよりは、高水準で安定し つつある可能性がある。端的に言うと、GDP 成長率予測の上方修正トレンドは、弊社の見たところほぼ完了した。だ が、予期しないショックが発生しない限り、景気拡大モメンタムが近いうちに逆転すると見込 む理由が、ほとんど存在しないことも確かである。

外国債券(3/19):楽観論の後退

米連邦準備制度理事会(FRB)は3月20~21日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利の引き上げを決める見通しである。しかし、第1四半期の経済成長率が失望的な結果に終わると予想されるため、FOMCメンバーの2018年の成長率予測や政策金利見通し(ドットの中央値)が上方修正される公算は小さいとみられる。

2019年のドットの中央値は小幅に変化する可能性もあるが、長期的な政策金利見通しは据え置きとなるだろう。物価上昇率の低迷が続くなか、米国および世界各国の金融引き締めは今後も緩やかなペースにとどまる公算が大きい。中央銀行の金融緩和がファンダメンタルズの改善につながり、それが債券利回りの上昇を下支えするため、弊社は債券相場に対して弱気な投資スタンスを維持していく。

外国債券(3/12):なおも追い風に乗り続ける

世界同時成長にとって、貿易戦争の恐怖が新たな逆風となっている。しかし、グローバルな景気拡大の勢いはより高い領域に達しつつあり、向かい風よりも追い風が優勢な状況に変わりはない。物価上昇率の低迷が続くなか、中央銀行は金融政策の正常化を緩やかなペースで進めることを強いられている。だが、一方通行の道で進むべき方向は一つしかない。

そのため、弊社は総じて弱気な債券投資スタンスを維持するのが望ましいと考えている。底堅い経済成長の文脈において、欧州中央銀行(ECB)は政策が後手に回る「ビハインド・ザ・カーブ」の状態をいとわないようだ。これは、中期的な低コストのベア・トレードとして、ユーロ金利の2年-5年スティープナーに投資妙味があることを示唆している。

マルチ・アセット(3/16): Multi Asset Portfolio: モメンタムは崩れた。ECBが2Qの主な懸念材料

ボラティリティの旅行者(VIX商品に投資されていた個人資金)が自宅に帰った今、弊社のアセット・アロケーション・プロセスを決定付ける3つの主なファクターは、米長期国債の動向、株式ボラティリティ・レジーム、および株式と債券の相関である。

過去の翻訳レポートを弊社のリサーチサイト(https://insight.sgmarkets.com/#/page/japanese)に掲載しています。

また、原文の英語レポートもご覧いただけます。

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ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司


Source: 株式投資
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