ニトリが営業利益率で「16.7%」を叩き出せる理由 株主にとっても「お、ねだん以上?」
ニトリが営業利益率で「16.7%」を叩き出せる理由 株主にとっても「お、ねだん以上?」
「野中の一本杉」という相場格言がある。株式市場全体が急落するような場面で、逆行するように上昇している銘柄を指した言葉だ。ニトリホールディングス(以下、ニトリ) は文字通り「野中の一本杉」と呼ぶに相応しい銘柄の一つであろう。
実は筆者の自宅からはクルマで10分ほどの範囲に3店舗のニトリがある。ニトリの家具やインテリアは、デザインがスマートで、クオリティも高く、値段もお手頃だ。店内を見て歩くだけでも楽しく、休日などはいつも多くの来店客で賑わっている。同社のキャッチフレーズ『「お、ねだん以上。」ニトリ』を実感している消費者は多いことだろう。消費者だけではない。株主にとってもニトリは「お、ねだん以上。」の銘柄なのだ。
ニトリの時価総額は78.6倍に
日経平均は年初にこそ26年ぶりの高値を付けたが、その後は下値波乱に見舞われるなど調整色を強めている。一部では「1月天井」の声も聞かれるが、そうした中で元気一杯の銘柄がニトリだ。同社は先週3月19日に1万9400円と過去最高値を更新した。ニトリは輸入比率が高く、最近の円高傾向が追い風になるとの期待もあるようだ。
ちなみに、ニトリの時価総額は2兆1000億円に達している。小売業としてはファーストリテイリング 、セブン&アイホールディングス(HD) に続く第3位だ。ファーストリテイリングは、ユニクロをベースにSPA(小売製造業)として自社の企画商品を機動的に海外生産することで急成長を遂げたが、ニトリのビジネスモデルもそれと共通する部分がある。たとえばニトリの自社開発品比率、海外輸入比率はどちらも8割を超えており、一般的な小売業界とは一線を画しているのだ。
ニトリの成長を後押しする最大の要因が上記ビジネスモデルであり、前2017年2月期の営業利益率は16.7%と小売業としては驚くほど高い数字を叩き出している。百貨店最大手の三越伊勢丹ホールディングス の前期末の営業利益率は0.2%、同じくファーストリテイリングは9.5%、セブン&アイHDが6.2%であることを考えると、ニトリの素晴らしさが良く分かるだろう。
ニトリはWebサイトで「数字で見るニトリ」を紹介している。それによると同社は、デフレ期で小売業界に逆風が吹いていた時期にも成長を続け、30期連続の増収増益を記録、時価総額は上場時以来78.6倍になったとしている(2017年2月時点)。
小型株の見極めで大切なのは「社長の人柄」
株式投資の最大の魅力はなにか。それは投資した企業が大きく成長し、企業業績の拡大に合わせて株価が上昇、時価総額も増大する中で自分の資産もどんどん膨らむことだ。自分の投資した会社が成長し、株価が上昇するのは、子育てやタニマチ気分に近いと筆者は考えている。会社の売上や時価総額が数十倍になるのは「夢のような話」と思われるかもしれないが、それを実現している会社がニトリなのだ。ニトリの成長は「ドリームストーリー」そのものと言って良い。
そんなニトリの原点は1967年、似鳥昭雄氏が北海道で創業した似鳥家具店にさかのぼる。1972年には称号をニトリに変更、そして1989年に札幌証券取引所に上場を果たした。当時、筆者は証券会社で外国人機関投資家を担当していたのであるが、実はその頃からニトリは「割安成長企業」として多くの外国人機関投資家の注目を集めていた。
外資系の運用会社には日本の小型株投資を得意とする会社がある。その会社のアナリストたちは「地方の評価されていない成長株」を探すのが大好きだった。そんなアナリストたちが張り巡らせたアンテナに引っかかったのがニトリなのだ。多くのアナリストがニトリを訪問するために北海道へと出張したものである。
北海道出張から戻ったアナリストに感想を聞くと必ず返ってきたのが、似鳥社長の人間的な魅力だった。小型株を見極める際には、会社のビジネスモデルと同じくらい社長の「人柄」も大切と言われたものであるが、当時から似鳥社長はアナリストの受けが良かった。余談であるが、当時は株式市場がシステム化されていなかったので、ニトリの株を買うために「札証」に電話で板を取るために注文していたものである。懐かしい思い出であるが、そんな時代からニトリは注目を集めていたのだ。
いまも昔も外国人の人気が高い
もっとも、実際のニトリの成長ぶりは、当時のアナリストたちが描いた「ドリームストーリー」を上回っているのかもしれない。
ニトリの売上高は、札幌証券取引所に上場する前の1988年2月期で103億円、それが2017年2月期には5130億円と約50倍に成長している。同じく経常利益は5億円から876億円と約175倍だ。その後、2002年にニトリは東証1部に上場、それまで外国人機関投資家など限られた市場参加者のお気に入り銘柄だった同社は、誰もが知る優良企業となった。2002年の初値は575円、安値は520円(分割調整済)。2018年3月19日の高値は1万9400円なので2002年の安値からは約37倍になった計算だ。
外国人機関投資家は長期保有が多い。実際、ニトリの現在の外国人持ち株比率は約35%に達している。高成長、高採算、高ROE(株主資本利益率)のニトリは、現在も外国人に人気がある企業という位置付けは変わっていない。
世界を代表する「ホームファニシング」として
ところで、一部メディアでニトリは「家具・インテリア製造小売チェーン」と紹介されることがある。しかし、先に述べた通りニトリのビジネスモデルはSPAでもあり、家具業界、インテリア業界という単純なくくりでは収まらなくなっている。
実際、ニトリは自らを「ホームファニシング」業態としている。家具やインテリアに限らず、住空間をトータルでコーディネートする店ということで、ニトリが提案した言葉だ。ライバルは大塚家具 ではなく、良品計画 やIKEAでもない。ニトリが目指しているのは「ホームファニシング」という新しい市場の開拓なのだろう。
そんなニトリは海外進出も着実に進めている。2018年2月末で、台湾27店、米国5店、中国18店と50店の海外店舗を有している。国内比ではまだ規模が小さいが、中国からの引き合いは多く、今期は20店程度出店する予定のほか、2022年には中国だけで200店舗のビジョンを描いている。
「お、ねだん以上。」ニトリーーそんな価値観を世界中の消費者と共有できる日が訪れるのを楽しみに待ちたい。
平田和生(ひらたかずお)慶応大学卒業後、証券会社の国際部で日本株の小型株アナリスト、デリバティブトレーダーとして活躍。ロンドン駐在後、外資系証券に転籍。日本株トップセールストレーダーとして、鋭い市場分析、銘柄推奨などの運用アドバイスで国内外機関投資家、ヘッジファンドから高評価を得た。現在は、主に個人向けに資産運用をアドバイスしている。
Source: 株式投資