グローバル(G)インフレをともなわない景気後退シナリオが更に困難に
グローバル(G)インフレをともなわない景気後退シナリオが更に困難に
シンカー: 景気の過熱であれ、貿易紛争であれ、物価の強い上昇が確認されれば、FRBの利上げの加速もあり、米国の景気後退のリスクが高まる。その裏で、グローバルな長期停滞やデフレなど、インフレをともなわない景気後退シナリオを描くのは更に困難になってきている。IoT、AI、ロボティクス、5G、ビッグデータなどの産業革命が生産性を押し上げるのが早いのか、強いインフレ圧力が早いのかが、今後の米国の景気拡大の長短を決めるとみられる。FRBは25BPの利上げに踏み切ったが、2018年の政策金利見通しを上方修正して利上げ回数を増やすところまでは行かなかった。その代わり、2019年からの政策金利見通しでは、より急勾配の経路を想定している。この勾配の傾きの変化が重要となる。
最新のSGグローバル・レポートと要約
◆外国債券(3/28): 外国債券Weekly:タカ派的な基調
米連邦準備制度理事会(FRB)は25BPの利上げに踏み切ったが、2018年の政策金利見通しを上方修正して利上げ回数を増やすところまでは行かなかった。その代わり、2019年からの政策金利見通しでは、より急勾配の経路を想定している。イングランド銀行(BOE)は7対2の賛成多数で政策金利の据え置きを決め、向こう1年間の利上げも限定的かつ緩やかなペースにとどまると予想し、次の利上げ時期については明言せず扉を開けた状態にした。欧州中央銀行(ECB)は最近、金融政策正常化のスピードに関する発言をトーンダウンしており、今後も我慢強い対応を続けていくだろう。しかし、第4四半期の量的緩和終了に向けて扉を閉ざしたわけではない。
◆外国債券(3/26): FI Special: LIBOR – 改革の時
ICEベンチマーク・アドミニストレーション(IBA)は、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の算出に関わる合計20のパネル銀行に対し、従来の手法を用いて公表されるLIBORと並行して、進化したウォーターフォール手法(提示レートの算出方法に優先順位を設け、順位の高い手法から算出に使用していく方法)を用いてのレート提示を義務付け、3月17日(土)にそのデータを公表した。本稿では、その主な観察結果に注目していきたい。
LIBORは今年初めから50BP上昇してきた。金利先渡し取引(FRA)とオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)のスプレッドも拡大し、2011年以降では初めて50BPを上回るようになった。最近のLIBOR急上昇の主因は、Tビル供給の急激な増加とコマーシャルペーパー(CP)、譲渡性預金(CD)金利の上昇にあるが、ウォーターフォール手法の変化もそれに寄与した要因かもしれない。
新たな手法の導入により、LIBORの寿命は2022年以降まで延び得るのだろうか?本稿では、こうした様々な疑問を解明していく。
◆クロス・アセット(3/23):アジア・クロスアセットフォーカス:米通商法301条調査:中国やアジアへの影響
米国政府は、中国が米国の知的財産権侵害をしているか否かについての、通商法301条に基づく調査に結論を出し、悪影響を及ぼす可能性がある報復措置パッケージ(中国製品に広く関税を課すことや、中国に対する投資やビザの制限が考えられる)を打ち出そうとしている。
これが非常に懸念されるようになる可能性はあるが、(米国と中国の)両サイドとも交渉を行う意図がまだ残っており、完全な貿易戦争を回避できる公算が非常に大きいと弊社は考えている。とはいえ、貿易戦争の回避には、米国と同じくらい中国の役割が重要となる。国内市場開放や外国企業との競争条件均一化を目指す中国のスタンスが、貿易赤字削減に向けた米国の努力と同様に重要となるかも知れない。
米中間の貿易戦争となれば誰もが傷つくと弊社は考えている。中国の製造業がまず打撃を受けるだろう。また中国の対米輸出で創出される価値の大部分には、中国の貿易相手国(特にアジア製造業と米国自身)が貢献している。言うまでもなく、中国国内の経済成長率や、(物価上昇を通じて)米国個人消費が影響を受ければ、ネガティブな波及効果が広がるだろう。
中国の株式市場は比較的国内志向だ。弊社の推定では、(上場企業の)国内外売上高は80%以上が中国国内で発生しており、米国の占める割合は低い。だが、貿易面での緊張が高まれば、まず米国向けエクスポージャーが高い企業(ハイテク、消費関連セクターなど)が被害を受けるだろう。2番目には、港湾、海運、陸運など運輸関連企業に被害が及ぶとみられる。
中国企業はグローバル・バリューチェインにますます組込まれるようになっているため、アジアの他の国の企業にも圧力がかかる。最も大きなダメージを受けるのは台湾と韓国になると見込まれる(海外売上エクスポージャーが、時価総額ベースで各々44%、32%にのぼる)。だがASEAN市場のエクスポージャーは比較的低く、アジア株式ポートフォリオの中ではASEAN市場をオーバーウエイトにしたいと弊社は考えている。
過去の翻訳レポートを弊社のリサーチサイト( https://insight.sgmarkets.com/#/page/japanese )に掲載しています。
また、原文の英語レポートもご覧いただけます。
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ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司
Source: 株式投資