テンセントの金融事業価値、アント・フィナンシャルを上回る?カギはやはり「微信」
テンセントの金融事業価値、アント・フィナンシャルを上回る?カギはやはり「微信」
中国金融界の主役はここ2~3年、アント・フィナンシャル(アリババ系)だったといってよい。
次から次へと新機軸を打ち出し、アリババグループの投資、買収戦略にも深く関わってきた。アリババ創業者・馬雲の類まれな発信力もあって、その名を聞かぬ日はなかったほどである。中国ユニコーン企業の筆頭とされ、その企業価値は、最新のランキングによれば750億ドルと見積もられている。
しかしアリババのライバル、テンセント(騰訊)の金融部門はそれ以上かも知れない、というレポートが話題となっている。経済サイト「界面」が伝えた。どのような内容となっているのだろうか。
大手証券会社による企業価値
騰訊の財務諸表の中では、金融とクラウドコンピューティングは、「その他業務」に分類されている。しかし、すでにゲームに次ぐ第二の収益源となっている。
騰訊の2017年「その他業務」収入は、433億3800万元、前年比153%だった。これは全営業収入の18.3%に相当する。第四四半期に限定すれば21.2%である。その中でクラウドコンピューティングが80~90%を占めると見られる。大手証券会社・国金証券の報告は、2020年に騰訊の「その他業務」収入が1000億元に達すると予想している。
他の報告でも、これらの点を高く評価している。やはり大手の光大証券は、その企業価値を7200億元(1150億ドル)天風証券は1200~1440憶ドルと算出している。いずれもアント・フィナンシャルを上回る。
しかしアリババグループには、別にクラウドコンピューティング子会社「阿里雲」がある。中国ユニコーン企業ランキング4位、企業価値は390億ドルとされている。これにアントの評価額750億ドルを足すと1140億ドル。これでも、光大証券による騰訊の評価額には、わずかに及ばない。
金融ラインアップ
両者の持ち駒を比較してみよう。上段がテンセント、下段がアリババ。カッコ内は持株比率だ。
【銀行】
微衆銀行(30%)
網商銀行(30%)
【証券】
中金公司(4.95%)
無し
【保険】
和泰人寿(15%)衆安保険(10.21%)英杰華人寿(20%)
国泰産険(51%)信美相互(34.5%)衆安保険(13.54%)阿里健康保険(20%)
【投信】
無し
天弘基金(51%)
【決済】
財付通(微信支付)
支付宝
【小口金融】
財付通網絡金融小貸
重慶螞蟻小微小貸、重慶螞蟻商誠小貸
【投信販売】
騰安基金販売
螞蟻基金販売
【保険仲介】
微民保険代理
上海螞蟻保険代理、杭州保進保険代理
【信用調査】
騰訊信用
芝麻信用
【金取引】
無し
天金所、網金社
天弘基金は中国最大のMMF、超人気商品「余額宝」の資産管理をしている。またモバイル決済シェアでは、支付宝が微信支付を上回っている。信用調査でも「芝麻信用」の存在感は圧倒的だ。生活に密着した部分の印象では、アリババ(アント・フィナンシャル)が大きくリードしている。
高い評価のワケ
しかし証券会社による見立てはそうなっていない。彼らは何を評価しているのだろうか(以下、カッコ内は商品・サービス名)。
騰訊の金融業務の中長期目標は、微信支付の金融サークルを強固にすることだ。中国最大のSNS微信(WeChat)のダウンロード数は10億を超えている。モバイル決済の微信支付ユーザーは8億で、微信ユーザーの81.6%である。金融サークルそのものは以下のように完成している。
消費者金融(微粒貸)支払管理(理財通)ネット保険(微保)ネット証券(微証券)信用付与(信用+)などである。これらの商品で、伝統的な金融業界が真剣に相手をしなかった小口の個人客を、丸ごと網ですくい上げている。しかしこれはアリババの支付宝も同じである。商品の知名度はむしろ上回っている。
違いは顧客数と使用頻度にあった。顧客数は微信支付の8億に対し、支付宝は5億2000万である。さらに使用頻度が違う。微信支付の顧客平均取引回数は、月間30回でほぼ毎日である。これに対し支付宝は、月間10回だ。日常的にチェックしているSNSに入口があることは、やはり大きなアドバンテージなのだ。
現状の金融収入では、アント・フィナンシャルが印象のとおりリードしている。それでも証券会社が騰訊を高く評価する理由はこうした“場景”にあるという。
証券会社のレポートにしては少し情緒的な気がしないでもない。しかし一体、騰訊とアリババ(アント・フィナンシャル)の争いは、どう決着するのだろうか。レポートも見通すことは難しいとさじを投げている。両者の争いが中国経済の成長エネルギーであるのは間違いない。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)
Source: 株式投資