マイナス金利が常態化した短期金融市場と現預金への影響
マイナス金利が常態化した短期金融市場と現預金への影響
2016年1月末に日本銀行によりマイナス金利政策が導入されてから2年が経過した。
マイナス金利政策では、民間金融機関が日本銀行に保有する日銀当座預金残高は3つの階層に分解され、マイナス金利(▲0.1%)はそのうちの「政策金利残高」のみに適用され、その他の2つの階層である「基礎残高」には0.1%、「マクロ加算残高」には0%が適用される。
マイナス金利政策は、日本銀行の国債買入などによって日銀当座預金残高が変動することが想定される中で、政策金利残高を一定の幅に抑制しながら、マクロ加算残高の上限をコントロールする仕組みになっている。2018 年2月時点で、マクロ加算残高は約118 兆円、マクロ加算残高の上限は約134 兆円となっている。よって、マクロ加算残高がその上限に達していないことから、民間金融機関の中にマクロ加算残高の枠に余裕のあるところが存在している。
日本の短期金融市場では、マイナス金利政策導入前、翌日物金利は0.1%前後を推移していたが、導入後はマイナス金利の状況が常態化している(図表2)。このようなマイナス金利の環境下では、マクロ加算残高の枠に余裕のある民間金融機関は、短期金融市場にてマイナス金利で資金調達を行い、適用金利が0%であるマクロ加算残高で運用すれば、リターンを得ることができる。一方で、資産運用サイドの存在が問題となるが、国債の償還資金が流入することなどにより、政策金利残高に適用される▲0.1%のコスト負担を避けたい民間金融機関が存在し、運用利回りが▲0.1%以上であればマイナス金利であっても、短期金融市場での資産運用ニーズが生じるため、これらの双方の取引ニーズは合致することになる。
しかも、マイナス金利政策の導入後に、短期金融市場から得られるリターンが低下しているにも関わらず、2017年の短期金融市場の取引残高は2016年と比べて増加している(1)。この2年間はマクロ加算残高の上限が拡大傾向にあったこともあり、このようなマクロ加算残高を用いた取引に対する民間金融機関のインセンティブも高まっていたと言える。イールドカーブ・コントロール導入後は日本銀行が日本国債の買入を減額しているとの指摘もあるが、今後も日本銀行がマイナス金利政策の下でマクロ加算残高の上限をうまくコントロールしていくことで、日本の短期金融市場ではマイナス金利が常態化した環境が継続していくものと予測される。
(1)「わが国短期金融市場の動向-東京短期金融市場サーベイ(17/8月)の結果-」(日本銀行、2017年10月)
年金運用において、このような短期金融市場の動向による影響を最も受けるのは現預金であろう。しかしながら、年金運用では前述したような日銀当座預金を用いた取引は行えない。マイナス金利政策導入後の早い段階から預け入れ先の金融機関よりマイナス金利に関するコスト負担を求められた確定給付年金では、マイナス金利政策導入直後は現預金残高が増加したものの減少方向に転じており、徐々に他のリスク資産へポートフォリオ・リバランスを進めたようである。一方で、確定拠出年金では、現預金残高は依然増加傾向にある。マイナス金利の適用を受けないため、あえて運用資産の価格変動リスクをとらず、元本確保と税制面のメリットを享受しているものと思われる。
公的年金では、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がこれまでマイナス金利分のコストを支払う必要がなかったこともあり、マイナス金利政策導入後に現預金残高が増加していた(2)。しかし、今後は、GPIFにおいても預金の預け先の銀行が負担するマイナス金利にかかるコストを支払う方針との報道も出ており、コールローンでの運用も模索されているようである(3)。コールローンや短期国債を用いて少しでもコストを低減する方向性を検討するのか、現預金残高を圧縮して他のリスク資産への投資を増やすのか、GPIFは運用規模が大きいこともあり、短期金融市場への影響も含めてその動向が注目される。
(2)「平成29年度第3四半期運用状況」(GPIF、2018年2月2日)によると、2017年12月末時点での実績では、短期資産が約7%存在する(3)「GPIF改革の方針」(厚生労働省年金局、平成28年2月16日)
福本勇樹(ふくもと ゆうき)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員
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Source: 株式投資