グローバル(G)安心感を与えながら、政策の正常化・引き締め
グローバル(G)安心感を与えながら、政策の正常化・引き締め
シンカー:欧米の中央銀行は堅調なマクロファンダメンタルスを背景に淡々と金融政策正常化へ向けて進んでいる。政策関係者は緩和政策の長期化が高インフレや資産バブルの形成につながることを恐れている。マーケットの反応などを意識しすぎ政策の正常化・引き締めのタイミングを逃す前に、可能な限り政策正常化に踏み切りたいようだ。しかし、マーケットは現状の景気拡大やインフレ動向では緩和政策の大幅な引き締めは実体経済へ望まないインパクトを与えると見ているようだ。欧米の政治不透明感が強まるなか、リスク資産価格に政策見通しを織り込もうとする局面で、ボラティリティは上昇している。欧米の政策関係者は政策引き締めによる景気後退などの不安を払拭し、金融市場に安心感を与えると同時に、好景気局面で可能な限り政策の正常化・引き締めに動くことになるだろう。日銀はグローバルな金利低下の影響を受ける中、2%の物価安定目標に向けて、引き続き緩和施策を続けている。黒田総裁の再任を含む新執行部はよりハト派的なスタンスを取りながら緩和政策を続けるとみられるが、グローバルな政治不透明感が長期化すると、物価下押し圧力は強まり、2%の物価安定目標の達成を難しくするだろう。今後、政治不透明感が無くなり、政府と協働で2%の物価安定目標を達成できるかが注目だ。
金融政策見通しの変要
FOMCは2018年に後2回の利上げ(6月、9月)へ踏み切るだろう。しかし、2019年にはその後はインフレが軟調となり、FRBの動きを抑制するとみている。リスクは「利上げ回数が4回になる」の方に傾いている。FRB要人は、インフレ率が目標の2.0%に達する、という自信を強めている。弊社は、(早ければ)2019年後半のリセッション入りを見込んでおり、その結果FRBによる利上げ回数の弊社見込みも制限される。ただインフレ懸念の強まりで、2018年後半と2019年早々に追加利上げを行う余地が生じている。
トランプ大統領は比較的タカ派的な3氏を空席のFRB理事のポストに指名する可能性もある。しかし、政策スタンスへの具体化は2018年を通じて時間をかけて進むことになるため、政策への短期的なインパクトは限定的だろう。新任理事は、経済、ひいては政策に対する見解がまとまるまでは議長と同じ立場をとる可能性が高い。トランプ大統領にはFRB理事を再編する機会はあるが、2018年中にFRB理事の打ち出す政策が過度にタカ派的になることは無いだろう。
堅調な景気拡大が続いているなか、持続的なインフレ率の加速が確認されず、APPを月間300億ユーロから一気にゼロへと過度に減額を避けるためにも、ECBは2018年末までの3カ月程度、APPを(月額150億ユーロにさらに縮小しながら)再延長すると予想。ECBはフォワードガイダンスを調整し始め、金利ガイダンスと最新の経済指標にますます注目するようになっている。量的緩和が短期間ながら再び延長され、その後の2019年6月と9月に利上げが実施されると見込んでいる。だがその後は米国景気の減速で追加利上げは遅れるだろう。
日銀は引き続き、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、海外金利が上昇する中、国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続けるだろう。持続的な物価上昇が可能な環境が整ったことを確認後、2019年中頃ににかけて長期金利の誘導目標が引き上げられるだろう。
3月のMPCではマカファティ、サンダースの両委員が、政策金利を25bp引上げることに票を投じ、MPC内のダイナミクスを示すという意味では重要だったが、こうした投票姿勢の変更は正当化できないとみている。現時点では、5月の次回会合で25bp利上げが決定される可能性が非常に高いとみられる。また、その次の動きが早まる、あるいは利上げが「6カ月に1回」からペースアップすることも示唆している。2018年11月と2019年5月に追加利上げが実施され、政策金利は1.25%に達すると予測する。しかし、その後はブレギジットの影響などから追加引締めをあきらめ、2019年11月には25bp利下げを行うと見込んでいる。
米国(Fed)
FFレート(予想:2018年はあと2回の利上げを予想):
FOMCは3月の政策会合で利上げに踏み切った。SGの予想は2018年に3回の利上げを実施し、FFレートの誘導目標は2.00%-2.25%になると予想し、後2回の利上げが実施されるだろう(6月、9月)。3月のFOMC前には、従来よりもタカ派色が強まると懸念されていた。だがFRBの新しい政策金利見通しは、2018-20年の合計で、従来見通しより1回利上げ回数が増えるに留まり、また、FOMC参加者の経済見通しは弊社見込みと非常に近い内容だった。変更後のSEPでは、失業率が過去50年で最も低い実績と同水準に引下げられ、GDP成長率も上方修正されていたが、インフレ率はほとんど引上げられていなかった。とはいえ(政策金利見通しを示す)ドットチャートの分布は明らかに上方シフトしている。
しかし、2019年にはその後はインフレが軟調となり、FRBの動きを抑制するとみている。リスクは「利上げ回数が4回になる」の方に傾いている。FRB要人は、インフレ率が目標の2.0%に達する、という自信を強めている。弊社は、(早ければ)2019年後半のリセッション入りを見込んでおり、その結果FRBによる利上げ回数の弊社見込みも制限される。ただインフレ懸念の強まりで、2018年後半と2019年早々に追加利上げを行う余地が生じている。
FOMCメンバー(予想:2018年はタカ派色が強まるが、過度にタカ派になることは無いだろう):
マービン・グッドフレンド氏(カーネギーメロン大教授)がFRB理事に指名されたが、上院の承認が滞っており結果は不確実だ。直近では、リチャード・クラリダ氏(コロンビア大教授、ピムコのアドバイザー)が副総裁に指名されるとの思惑が強まった。
FOMCのメンバー構成は、2018年にはタカ派色が強まる。非常にハト派だった地区連銀総裁(シカゴ連銀エバンス総裁、ミネアポリス連銀カシュカリ総裁)が、よりタカ派的な地区連銀総裁(クリーブランド連銀メスター総裁、リッチモンド連銀バーキン総裁)に交代するだろう。昨年末にリッチモンド連銀総裁に任命されたバーキン氏はまだ政策に関する演説を行っていなく、政策スタンスが明確でない。学者出身のエコノミストでない同氏は、少なくとも当初は、伝統的にタカ派的なリッチモンド連銀スタッフの見方に強く左右されタカ派的なスタンスをとる可能性がある。
また、ニューヨーク連銀のダドリー総裁は、2018年春に退任すると示唆したているため、来年のいずれかの時点で新総裁を探すことになるだろう。ダドリー氏はイエレン議長、フィッシャー・前副議長とともに、FOMCの意思決定の中心だったことから、この3人の退任は非常に重要だろう。今後、FRBが大きく変わるとは見込んでいないが、非常に多数の変化が控えていることは確かだ。
トランプ大統領は比較的タカ派的な3氏を空席のFRB理事のポストに指名する可能性もある。しかし、政策スタンスへの具体化は2018年を通じて時間をかけて進むことになるため、政策への短期的なインパクトは限定的だろう。新任理事は、経済、ひいては政策に対する見解がまとまるまでは議長と同じ立場をとる可能性が高い。トランプ大統領にはFRB理事を再編する機会はあるが、2018年中にFRB理事の打ち出す政策が過度にタカ派的になることは無いだろう。
FEDバランスシート縮小(予想:マーケットへの影響が限定的な縮小を継続):
FRBの米国債ポートフォリオは、2017年10月から(2年物と5年物国債を中心に)縮小し始めた。月々の縮小額上限をFRBは発表しているが、10月は(米国債に関しては)60億ドルで始まった。FRBガイダンスが数カ月間慎重に進められた後、市場はFRBの資産縮小をそれほど懸念していない。直近では、債券利回りが上昇した際に、ポートフォリオ縮小に言及された。これは、債券利回り上昇の理由を探す自然な動きかも知れない。それに加え、欧州や日本で出口戦略が見込まれることが、世界の中央銀行が市場から手を引きつつあるという懸念と組み合わさった可能性もある。
ユーロ圏(ECB)
金融緩和政策(予想:2018年中の量的緩和終了を目指す):
注目は2018年初めのコアインフレ率の動向だろう(2018年初めのドイツでの賃金交渉やイタリア総選挙の影響を含めて)。ECBのスタッフ経済見通しでは、景気モメンタムの力強さと、経済でのスラック(たるみ、余剰)が大幅に小さくなっていることを強調された。ドラギ総裁の発言も景気の力強さやインフレがECB目標に近づくという自信を強めるという内容だった。しかし、総合インフレ率は2020年に1.7%に達するとしか見込まれておらず、2019年の賃金上昇率も大きく下方修正されている。コアインフレ率が2020年にはECB目標に近づくと見込まれているため、ECBが来年に量的緩和を終了させることは、今もなお可能だろが、ECBは慎重に進む方を選択するだろう。次の注目点は「ECBがQEを2018年9月に終了できるのか、それとも再延長が必要になるのか」だろう。
堅調な景気拡大が続いているなか、持続的なインフレ率の加速が確認されず、APPを月間300億ユーロから一気にゼロへと過度に減額を避けるためにも、ECBは2018年末までの3カ月程度、APPを(月額150億ユーロにさらに縮小しながら)再延長すると予想。
政策金利利上げ(予想:2019年中に2回の利上げを実施):
ECBはフォワードガイダンスを調整し始め、金利ガイダンスと最新の経済指標にますます注目するようになっている。量的緩和が短期間ながら再び延長され、その後の2019年6月と9月に利上げが実施されると見込んでいる。さらにその後は、米国のリセッション入りによって追加利上げは不可能になるだろう。
2019年6月と9月の2回にわたり、第1次の利上げが実施されると見込んでいる。だが米国景気の減速で追加利上げは遅れるとみられる。これは、今年、来年とユーロ圏のGDP成長率が潜在成長率を上回る中で実現、GDPギャップがプラス(インフレギャップ)となる結果になるだろう。2020年後半に利上げサイクルが再開するにつれて、中銀預金金利、主要リファイナンシング・オペ金利、貸出金利のコリダーは、最低の50bpに戻ると弊社は見込んでいる。弊社が想定している2019年後半の米国リセッション入りの後、ECBが小幅利下げを実施するとみられる。2020年3月には預金金利がマイナス0.15%になると見込まれる。
日本(日銀)
誘導目標(予想:2019年中頃に長期金利の誘導目標を引き上げ):
2%の物価目標にはまだ距離があり、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、海外金利が上昇する中、国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続けるだろう。しかし、堅調な国内ファンタルスを背景に物価目標の達成前に、日銀は長期金利の誘導目標引き上げに動くだろう。長期金利の誘導目標引上げの必要条件は、展望レポートの物価のリスクバランスの中立化に加え、コアコアCPIの前年比が1%を超え、円安の動きが再開する(実効為替レートの円安)ことであると考える。これらの条件が満たされ、長期金利の誘導目標が引き上げられるのは、2019年中頃と予想する。日銀が誘導目標を引き上げても、上昇していく長期金利のフェアバリューとのスプレッドは拡大し、緩和効果は継続していると説明するだろう
マイナス金利政策(予想:2%の物価上昇を達成する2021年に解除):
日銀は長期金利の誘導目標を徐々に引上げ、長期国債の買入額は減少していく。長期国債の買入は2021年までに終了すると考える。その後、2%の物価上昇を確認し、マイナス金利政策の解除に動くと考える。
中国(PBOC)
銀行間金利(予想:政策実行のために、流動性供給を通じた安定したコリダー内で維持):
金融システミック・リスクの回避が、PBoCの優先事項の1つだろう。このためには、銀行の流動性状況(確保)を安定させる必要がある。同時に、金融レバレッジの大幅な拡大を抑制するという政策目的も、銀行の資金調達コストを低水準とする論拠になる。このため、PBoCは計算された流動性供給を通じて、銀行間金利を安定したコリダー内に維持すると弊社は見込んでいる。
第1四半期に追加利上げ実施の可能性も少しあるが、いずれにせよその後は緩和策が必要に:景気モメンタムが堅調で、大幅なCPI上振れの可能性もあるため、第1四半期の追加利上げ実施を完全には否定できない。だがGDP成長率が1四半期かそれよりも長く6.5%を下回った場合は(弊社は、今年後半にそれが実現すると見込んでいる)、PBoCも緩和策(預金準備率と金利の一方または両方の引下げ)が必要になろう。なお弊社は、基準預金/貸出金利が引上げまたは引下げられる可能性は非常に低いとみている。預金金利、貸出金利とも正式に自由化されているためだ。
近年の中国の銀行や銀行以外の金融機関は、短期的なホールセール資金調達を行い、資本クッションをほとんど持たない中で、シャドーバンキング貸出しに積極的だった。その結果、金融システム全体が流動性リスクにますます左右されるようになった。現在の政策担当者は、デレバレッジをやり抜く覚悟ができており、副首相が主任として率いる金融安定発展委員会が、マクロプルーデンシャルな政策や金融規制を使いキャンペーンをリードしていく。こうした規制強化の影響は債券利回りや短期市場金利の上昇、小規模銀行でのシャドーバンキング資産縮小という形で、既に明らかになっている。債券市場、理財商品ビジネス、小規模銀行ではこうした痛みは続き、実体経済のモメンタムへの影響はこれからだが、その大きさは不確実だ。実体経済のダメージを限定するには、実体経済の安定的な資金調達確保や、システミックな流動性危機を回避するための、政策担当者の努力が重要になるだろう。
英国(BOE)
政策金利(予想:今年5月に25bp利上げが行われ、2018年11月と2019年5月に追加利上げを):
BOEは2017年11月の政策決定会合で10年ぶりに利上げに踏み切った。2月発表のインフレレポートでBOEの金融政策委員会は今年中に金融引き締めを進める意向を繰り返し確認した。3月のMPCではマカファティ、サンダースの両委員が、政策金利を25bp引上げて0.75%とすることに票を投じていた。弊社は、両氏が「政策金利変更無し」に投票していた前回会合以降にサプライズ的な動きがなかったため、MPC内のダイナミクスを示すという意味では重要だったが、こうした投票姿勢の変更は正当化できないとみている。このため現時点では、5月の次回会合で25bp利上げが決定される可能性が非常に高いとみられる。
また、その次の動きが早まる、あるいは利上げが「6カ月に1回」からペースアップすることも示唆している。これによりMPCの望むピーク時政策金利が2.5%前後から変わるとは考えていないが、この(2.5%という)水準に至る前に、2つの要因によって引締めプロセスが中断する、という見方も変えない。それは、①ブレグジットにより企業の景況感や消費者信頼感が大きく揺らぐこと、②弊社が見込む2019年遅くの米国リセッション入りだ。①に関して、英国政府はEU27カ国の要求に従うことを引き続き準備しており、リスクが少し低下していることは確かだ。だがブレグジットの条件に対して議会が反乱する可能性も残るため、非常に大きくリスクが低下することも考えづらい。このため弊社は、2018年11月と2019年5月に追加利上げが実施され、政策金利は1.25%に達すると予測する。その後は上述した2点の要因にMPCも耐え切れずに追加引締めをあきらめ、2019年11月には25bp利下げを行うと見込んでいる。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司
Source: 株式投資