技術・経済大国ドイツのフィンテック市場とスタートアップ

技術・経済大国ドイツのフィンテック市場とスタートアップ

ドイツというと先進国の中でも輸出に強く、自動車産業が主軸の工業・技術立国の一つである。そのことから日本と共通する点も多く、遠くて近い国というイメージを持っている人も少なくないだろう。

工業に支えられ経済大国の地位を築いたドイツは、ヨーロッパ、EUという国境を越えた経済圏に位置していることも助けとなり、特に首都ベルリンはヨーロッパの新興スタートアップのハブとして現在、国内外から才能を集めている。また、首都をはじめ諸都市でも、国内外のフィンテックスタートアップによる次世代金融プラットフォームが育ちつつある。ここでは事例を交えて、ドイツのフィンテックについて紹介する。

ドイツにおけるフィンテック投資の今

Germany
(写真=canadastock /Shutterstock.com)

ドイツにおけるフィンテックの動向について、ドイツのメガバンクの一つであるコメルツ銀行グループ内のオンラインバンク、コムディレクト銀行が「FinTech-Profil: Deutschland」を発表した。

この統計によると、ドイツでのフィンテックスタートアップの創業は、2015年の170社をピークに現在は減少傾向にある。VC(Venture Capital、ベンチャーキャピタル)からのフィンテック分野への投資は2013年から2015年にかけて毎年倍増を繰り返してきたが、6億2,400万ユーロに達した2016年を境に伸びは穏やかになりつつある(2017年の統計はいずれも9月までのもので第4四半期が含まれていない)。

VCから市場全体に投資される割合を見ても、2016年は投資額全体の30%がフィンテックスタートアップに投資されたが、2017年上半期は25%となっている。

数字だけ見ると穏やかになってきているが、それでもドイツのフィンテック分野への投資額は大きいといえるだろう。単純に比べることはできないが、コンサルティング会社アクセンチュアによると、2016年の日本のフィンテック投資は1億5,000万ドルで、両国のフィンテックへの投資額には大きな開きがあるのだ。

ドイツのフィンテックスタートアップ――P2P融資からB2B、そしてカンパニービルダーまで

ドイツのフィンテック市場にはどのようなスタートアップが存在するのだろうか。ドイツのフィンテックスタートアップの草分けといえば個人間のP2P(Peer to Peer)融資を扱うAuxmoneyがある。デュッセルドルフに拠点を置き、2007年の創業から2017年で10年目を迎え、これまでに合計2億ドル近い投資を受けている。

創業4、5年のスタートアップで、すでに数十億円規模の大規模な投資を受けた例も見られる。N26はスマートフォンのアプリから操作できるモバイルバンクを展開するベルリンのスタートアップで、世界19の通貨と交換が可能だ。ヨーロッパ17ヵ国の30万人以上の顧客にサービスを提供している。2013年の創業以来5,500万ドルの投資を受け、2017年にはアメリカ市場への参入を発表したほか、「European FinTech Award 2017」も受賞している。

ドイツの金融都市フランクフルトを拠点とするDwinsはAIを利用した資産管理アプリFinanzguruを提供するスタートアップで、2016年にドイツ銀行によるハッカソンを勝ち抜き、同行のDigi Venture Fondsの出資を受けてパートナーとしてアプリを提供している。

ミュンヘンとロンドンを拠点とするScalable Capitalは、ゴールドマン・サックス出身者が2014年に創業したスタートアップだ。独自のソフトウェアで構成したポートフォリオにより資産運用サービスを提供し、5億ユーロ超を運用している。これまでに4,100万ユーロの投資を受けている。

さらに、個人向けにサービスを提供するフィンテックスタートアップに加え、B2B(Business to Business)のフィンテックスタートアップも存在する。Figoはハンブルクを拠点とするスタートアップで、銀行をはじめとする金融機関を主な顧客とし、銀行やクレジットカードなどさまざまなソースの金融データへのアクセスを可能にしている。フランクフルト証券取引所の運営を行うドイツ取引所からの680万ユーロを含め1,010万ユーロの投資を受けている。

また別の観点では、自らスタートアップを設立し、また企業の成長に必要な支援も行うカンパニービルダーという種類のスタートアップの活動も注目される。2014年に創業したFinLeapはその代表例だ。フィンテック分野に特化しており、日本のSBIグループからの投資も含めてこれまでに3,900万ユーロの投資を受け、12社のフィンテックスタートアップの設立に携わった。B2Bのフィンテックカンパニービルダーとしてはミュンヘンを拠点とするFinconomyもあり、2017年10月の創業以来すでに3社を設立している。

各社が受けてきた投資に目を向けると、出資はエンジェル投資家、アクセラレータプログラム、VCからとさまざまだ。大手金融機関の動きとしては、2大メガバンクであるコメルツ銀行は、大陸ヨーロッパではじめての大手銀行によるフィンテックインキュベーターmain incubatorを立ち上げ、2014年からフィンテックスタートアップの育成に取り組んでいる。

また、もう一つのメガバンクであるドイツ銀行は先にあげた同社のDigi Venture Fondsによる出資のほか、著名なアクセラレータプログラムであるAxel Springer Plug and Play Accelerator(ドイツ)やH-FARM(イタリア)と提携し、前者では銀行業や保険、後者ではブロックチェーンに関するスタートアップの発掘と育成に乗り出そうとしている。ドイツ銀行がAxel Springer Plug and Play Acceleratorとの提携で注力する保険分野はInsurTech(インシュアテック)と呼ばれ、冒頭で触れたコムディレクト銀行の統計の中でも成長が期待される分野とされている。

ブロックチェーンを利用した、革新的なサービスの提供

ブロックチェーンを利用した、革新的なスタートアップやサービスもドイツでは生まれつつある。ザクセン州の小さな都市ミットヴァイダに拠点を置くSlock.itもその一つだ。Slock.itはブロックチェーンとIoTの組み合わせで、鍵のかけられるものであれば住宅から車まで何でもシェアできるサービスを提供する企業だが、スマートコントラクトを利用してP2Pでの支払いや保険も扱う。2016年にはEthereum(イーサリアム)にハードフォークをもたらした分散型投資ファンド The DAO(ザ・ダオ)を開発したことでも知られ、2015年の創業からこれまでに200万ドルの投資を受けている。

Neufundはベルリンを拠点とし、仮想通貨と株式を橋渡しするブロックチェーンベースの資金調達プラットフォームを提供する。これまでに1,200万ユーロの投資を受けている。

そのほか、次世代ブロックチェーンともいわれるTangleを利用したIoTのための仮想通貨IOTA(アイオータ)の非営利団体、フィンテックスタートアップではないがその基礎となり得るスケーラブルなブロックチェーンプラットフォームを提供するBigchainDBもベルリンに拠点を置く。

欧州の有数フィンテックハブをめざすドイツ

冒頭でも触れたとおり、ドイツにおけるフィンテックの盛り上がりは投資額や創業の数という点では落ちつきつつあるが、モバイルバンキングN26や投資サービスScalable Capitalのように軽々と国や地域を越えてサービスを提供していく事例も出てきている。特にブロックチェーンを取り入れた新しいフィンテックスタートアップは国境を意識していないのかもしれない。IOTAやSlock.itのThe DAOはICOにより世界中から資金を集め、IOTAのマーケットプレイスには世界的な大手企業が参加を表明している。

こうしたスタートアップや、IOTAのような非営利の団体が、ロンドンに次ぐヨーロッパのスタートアップのハブとして頭角を現すドイツの首都ベルリンを中心に育ちつつある。ベルリンはかつてアーティストの町として知られ、先進国の首都としては各段に物価が安く、居住や就労に制限のないEU市民をはじめ、域外の才能をも魅了してきた。

その独特な背景からベルリンではボトムアップでスタートアップシーンが盛り上がりを見せている。

EUではイギリスの離脱を控える中、ベルリンがスタートアップシーンで今後どのような地位を築いていくのか、またベルリンのほかハンブルク、ミュンヘン、金融都市フランクフルトといった諸都市でどのようなスタートアップが出てくるのか注目されている。(提供:MUFG Innovation Hub

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Source: 株式投資
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