景気ウォッチャー調査(18年3月)~天候不順による影響が和らぐも、改善は限定的~
景気ウォッチャー調査(18年3月)~天候不順による影響が和らぐも、改善は限定的~
景気の現状判断DI(季節調整値):天候不順による影響が和らぐも、改善は限定的
4月9日に内閣府から公表された2018年3月の景気ウォッチャー調査によると、景気の現状判断DI(季節調整値)は48.9と前月から0.3ポイント上昇し、4ヵ月ぶりの改善となった。しかし、天候要因を主因として、1月(前月差:▲4.0ポイント)、2月(同:▲1.3ポイント)と大きく落ち込んだことに比べると、上昇は小幅に留まっている。家計動向関連では、天候不順による影響が和らいだことで客足が戻ってきたが、消費者の低価格志向が指摘された。企業動向関連では、受注は好調が続いているようだが、原材料価格が上昇する一方で販売価格への転嫁に苦慮しており、人件費の上昇も収益を圧迫している。雇用関連では、企業の求人活動は活発な一方で、人材をなかなか確保できない企業がみられる。なお、内閣府は、基調判断を「緩やかな回復基調が続いている」に据え置いた。
家計動向関連が改善も、企業動向関連が悪化
現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連(前月差+0.7ポイント)は改善したものの、企業動向関連(同▲0.3ポイント)、雇用関連(▲0.4ポイント)が悪化した。家計動向関連の内訳については、飲食関連(前月差▲1.1ポイント)は悪化したものの、小売関連(同+0.7ポイント)、サービス関連(同+1.0ポイント)、住宅関連(同+0.2ポイント)が改善した。
コメントをみると、家計動向関連のうち小売関連では、「1~2月に購入を控えていた客がみられた分、3月に入り購入客がやや増えている」(北海道・乗用車販売店)や、「2月の大雪の影響でキャンセルになった予約が、延期となって今月の利用に結び付いている。週末は隣県からマイカーでの家族利用が大幅に伸びている。例年に比べ105%ほどの来客数になっている」(北陸・高級レストラン)など、春に向けて天候が穏やかになり、客足が戻ってきたようだ。一方で、「客は、少しでも安い商品から選択するようになっている。推奨販売しても、よほどの差がない限り単価の安い商品を購入する」(南関東・その他サービス[保険代理店])や、「春休みの旅行について、間際需要が発生している。ただし、近場への旅行が多く、単価の安い行き先に客の意識が向いている。旅行を検討する余裕は出てきているが、財布のひもは固い」(近畿・旅行代理店)など、高価格帯の商品・サービスへの消費は避けているようだ。
住宅関連では、「消費税の引上げまで1年となったことから、駆け込み購入に向けた客の動きが積極的になっている。特に、土地購入からの第1次取得者層にその動きが顕著にみられる」(中国・住宅販売会社)など、増税前の駆け込み需要が少しずつ出てきているようだ。
企業動向関連では、製造業(前月差0.2ポイント)は小幅に改善したものの、非製造業(同▲0.9ポイント)が悪化した。コメントをみると、「受注量はまあまあだが、原料価格が高騰している。製品価格を上げざるを得ないが、客先を回って要請する手間がかかって大変である。数か月後からしか変更に応じてもらえない取引先も多く、利益が圧迫されている」(東海・窯業・土石製品製造業)や、「原料価格高騰により製品価格の転嫁を進めているが客の反応が悪く苦戦している」(四国・化学工業)など、受注は好調のようだが、原材料価格の上昇を販売価格に転嫁するのに苦慮している企業がみられる。また、「新規の受注単価は上がってきているが、その分人件費の高騰もあるので、収益的にはそれほど変わりはない」(南関東・その他サービス業[ビルメンテナンス])など、単価を引き上げても、人件費の上昇により、利益が十分に伸びない企業もみられる。
雇用関連では、「3か月前あるいは前月と比べても求人数が大きく伸びており、正社員募集、パートアルバイト募集共に新年度に向けて求人活動が活発となっている」(中国・求人情報誌製作会社)など、引き続き企業の採用活動が活発な様子がうかがえる。一方で、「人手不足は相変わらずだが、何をやっても採用に結び付かないためか、企業には諦めムードが漂い始めている」(東海・新聞社[求人広告])など、なかなか人手を確保できない企業も出てきているようだ。
景気の先行き判断DI(季節調整値):先行き懸念が広がり、11ヵ月ぶりに50を下回る
先行き判断DI(季節調整値)は49.6(前月差▲1.8ポイント)と5ヵ月連続で悪化した。高水準での推移が続いていたが、11ヵ月ぶりに節目となる50を下回った。DIの内訳をみると、家計動向関連(前月差▲1.7ポイント)、企業動向関連(同▲1.7ポイント)、雇用関連(同▲1.4ポイント)いずれも大幅に悪化した。
家計動向関連では、「4~5月にかけて、一部の生活必需品や電気料金が値上げとなるが、4月以降の賃上げによる消費の拡大に期待している」(北陸・百貨店)など、新年度からの所得環境の改善に期待するコメントがみられた。一方で、「ガソリン代の高止まり、青果物の相場高、各食品メーカーの実質的な値上げなどにより、この先の客の財布のひもがますます固くなることを懸念している」(北海道・スーパー)など、物価上昇による節約志向の高まりが懸念されている。また、「同業他社の出店による影響はもちろんあるが、ドラッグストアの食料品充実による影響が拡大している。対抗したくても人手不足で以前のように総力戦では戦えない」(東海・コンビニ)など、コンビニ同士だけでなく、ドラッグストアも含めた競争が激化しているようだ。
企業動向関連では、「米国の保護貿易政策により、景気不安感が広がれば設備投資の動きは停止する。今後の世界経済の動向に注視が必要である」(北陸・一般機械器具製造業)など、米国の通商政策の動向を不安視するコメントが目立った。また、「外国為替が安定せず、円高基調であることから輸出の採算性が低下する恐れがある」(甲信越・一般機械器具製造業)など、円高による収益悪化も懸念されている。
雇用関連では、「求人数は増加傾向だが、求職者とのミスマッチが続いており、具体的な成果に結び付いていない」(南関東・人材派遣会社)など、先行きも雇用のミスマッチが続くとみられている。また、「求人自体が減るとは予想していないが、求職者を集めるための費用が今まで以上にかかっており、今後は公共の就職情報サイトや紹介事業も含めた業界内の競争が加速する」(近畿・民間職業紹介機関)など、求職者が十分に集まらない中、求人広告会社や人材紹介会社などの企業間の競争が加速することを懸念するコメントがみられた。
景況感は4ヵ月ぶりに改善したものの、上昇は小幅となり、先行きの景況感は節目となる50を11ヵ月ぶりに下回った。米中の貿易摩擦を巡る応戦や金融市場の動向など先行きに対する不透明感が高まっている。物価上昇に伴う消費の落ち込みやコスト上昇による収益悪化などの懸念も高まっており、景況感は当面足踏みした状態が続きそうだ。
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白波瀨康雄(しらはせやすお)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員
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Source: ZUU online
Source: 株式投資