「アマゾン銀行」と差異化するヒントがここに ECで生き残っている企業の戦略とは
「アマゾン銀行」と差異化するヒントがここに ECで生き残っている企業の戦略とは
2017年末、金融業界に「アマゾンが銀行業に進出するのでは」という衝撃が走った。米国では銀行業に対する規制緩和を求める動きがあり、以前から噂されていたテック系企業の銀行業参入がいよいよ本格化するかもしれない。
さまざまなイノベーションを起こし、EC業界の既存プレイヤーに大きな影響を与えてきたアマゾン。もし銀行業に進出してきた場合、金融機関はどのように差異化を図ればいいのだろうか。
そこで参考にしたいのが、アマゾンが圧倒的な強さを誇るEC分野の事例だ。EC業界でも、アマゾンとの差異化に成功して独自の地位を確立している企業がある。その企業の事例から、差異化する術を考えていきたい。
アマゾンが銀行業へ参入!?そのインパクトとは
2017年12月、金融業界を揺るがすニュースが報道された。その内容は、アマゾンが中小規模の銀行を買収して米国国内で金融業に本格的に参入するのではないか、というものだ。以前からアマゾンをはじめ、Google、Apple、Facebookの巨大なプラットフォーム企業、通称「GAFA」が金融業に参入した場合の影響については、さまざまなところで論じられてきた。報道はあくまで推測の域を出ない段階だが、2018年にGAFAの一つ、アマゾンが銀行業に参入する可能性は考慮しておくべきだろう。
米国では、アマゾンユーザーの2/3が、月額で利用料を支払うプライム会員になっているといわれている。米国のプライム会員は2017年6月時点でおよそ8,500万人(前年比35%増)とされており、米国内におけるアマゾンの影響力は年々大きくなっていることが数字上明らかになっている。このペースを維持すれば、2018年には1億人に達してもおかしくないだろう。
この顧客基盤を持って、自動車ローンや住宅ローンをはじめとする個人向け融資などの金融サービスを展開した場合、既存の金融機関に与える影響は計り知れない。アマゾンが銀行参入した際に、金融機関はどのように共存を図っていけばいいのだろうか。
EC業界で圧倒的な存在感を持つアマゾンだが……
それを考えるうえでヒントになるのが、EC業界におけるアマゾンと他企業の関係だ。アマゾンが圧倒的な存在感を示すEC業界だが、共存に成功している企業があるのだ。この点から、既存の金融機関が向かうべき方向が少しずつ見えてくるのではないだろうか。
たとえば、アマゾンにはユーザーにおすすめの製品を表示する「レコメンド機能」がある。アマゾンの強みの一つだが、レコメンドした理由は、現在のところユーザーにはっきりと提示してはいない。商品説明ページを見ても、基本的にはメーカー側が提示している仕様などが中心となっている。また、製品ラインナップを見ると紹介するのは「モノ」が大半であり、サービスはほとんど紹介していない。
現在は、「モノ消費」から「コト消費」に消費者の需要が切り替わっている時代だ。この状況を踏まえると、よりユーザーに密着したコミュニケーションを実現し、モノだけではなくサービスも提供している企業は、独自のポジションを確保してEC業界でビジネスを成立させることができるのではないだろうか。
アマゾンに負けない!EC業界で地位を確立している企業の戦略とは
実際にEC業界ではアマゾンと共存することに成功し、ビジネスを展開している企業がいくつもある。その一つが、アイウェアブランド「JINS」を展開する株式会社ジンズ(以下、「ジンズ」)だ。オーダーメイドが基本のメガネは、ECで展開するのは難しいとされており、海外でも電子商取引を展開した際の返品率の高さが問題になっているという。
しかしジンズは、ECサイトでAIがメガネのマッチ度を評価する「JINS BRAIN」を展開しており、お店で測った度数などを入力してアイウェアを購入できるようにするなど、顧客により密着したサービスを推し進めている。実店舗での受け取りやアフターサービスとも連携しており、その利便性は好評のようで、売上増加にもつながっているという。
また、衣料品販売のユナイテッド・アローズも、ECで成功している企業の一つだ。他社モールだけでなく、自社モールの売上も伸ばしている。その要因として実店舗のPOSデータをECに反映させることでレコメンド機能を強化し、着こなしの参考にスタッフのスタイリングを掲載するなどして、顧客ニーズを的確に捉え、提案できるように取り組んでいる。また、Web接客ツールを導入して、顧客セグメントごとにWebページ上に異なるポップアップを表示しているという。
金融機関がアマゾンに対抗するために必要なこととは
このようにEC業界には、独自の戦略を採用してアマゾンと差異化を図り、ビジネスを伸ばしている企業もある。これらの企業の特徴をまとめると以下の3点がポイントとなる。
- アマゾンにはない製品・サービスを顧客に提供している
- 顧客に対して、Web上でより密なコミュニケーションをとり、マーケティングを展開している
- 実店舗を展開している企業はECとの連携を強化して利便性を高める
今後、金融機関がまず注力するべきは「1」ではないだろうか。オープンイノベーションを進め、アマゾンでは提供できない独自の金融サービスを生み出す必要があるだろう。また「2」も、金融機関としてこれから力を入れていく分野の一つといえる。顧客に対して、自社の金融サービスを利用するメリットを訴えかけることが重要だ。これによりアマゾンとの競争だけでなく、金融機関同士の競争でも優位に立つことができるだろう。
これを踏まえたうえで、オンラインバンキングやスマートフォンアプリで従来の金融サービスを提供するだけでなく、これまでの取引データや家族構成などの属性を踏まえた将来の収支シミュレーションを考慮したサービスの企画・提案など、顧客へこれまでと異なるアプローチも含めて働きかけていく必要があるだろう。
その際にポイントとなるのは、顧客が金融機関に対して持つ「信頼」や「堅実」といったイメージをいかにマーケティングにいかせるか、ではないだろうか。大事な資産を預けるのだから、信頼できる金融機関を選びたいというニーズは引続き十分にあるはずだ。金融機関が永らく大切にしてきた「信頼」と「堅実」を礎に、テック系企業との「差異」をいかに出していくかが問われてくるのではないだろうか。(提供:MUFG Innovation Hub、執筆者:山田雄一朗)
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Source: 株式投資