たなぼた、どろなわ、やぶへび。省略は四文字が心地よい理由
たなぼた、どろなわ、やぶへび。省略は四文字が心地よい理由
思いがけない幸運に恵まれることを「棚からぼたもち」と言いますが、これを略して「たなぼた」とも言います。このほか、「やぶへび」「どろなわ」「かもねぎ」など、ことわざを略して言うことはよくありますが、これらがなぜ四文字なのか分かりますか? 今回の無料メルマガ『1日1粒!「幸せのタネ」』では、著者の須田將昭さんが、「四拍」を愛する日本語の不思議について紹介しています。
たなぼた・どろなわ・やぶへび
タイトルで書いた、
- たなぼた
- どろなわ
- やぶへび
の三つは、これはすべて、ことわざが省略されたものです。
「たなぼた」は「棚から牡丹餅(ぼたもち)」ですね。「思いがけない幸運に恵まれた」ことを指して言いますね。「たなぼた式」と複合語にまでなっている言い方もあります。
「どろなわ」は、「泥棒を捕まえてから縄をなう」です。泥棒を捕まえてから、縛るための縄を作るというのは、準備が全くできていない、ことが起きてから慌てて対処する、という意味ですね。割とよく使われる言い方かもしれません。
「やぶへび」はどうでしょうか? たまに「藪から蛇」と間違えている人もいますが、「藪から棒」と混ぜてしまっていますね。「藪をつついて蛇を出す」が本当で、要らんことをして厄介なことになること、悪い結果を招く様を指して言いますね。
これらはみんな長いことわざが短くなった、つまり「省略語」の類と言えます。省略語は、一般には「若者言葉」の特徴の一つなのですが、これらのことわざの省略バージョンがいつごろからできたのか、ちょっと調べたところではわかりませんでした。
ただ、辞書の見出し語にもなるぐらいにすっかり定着していますので、相当長い期間使われているのは間違いありません。ひょっとしたら元が長いことわざだったという意識すら希薄になっているかもしれません。「やぶへび」が「藪から蛇」と間違う人がいても、やむをえないというところでしょうか。
他に、このような省略されたことわざは思いつきますか? 私は後はせいぜい「かもねぎ(鴨がネギをしょってくる)」が思いついたぐらいです。ちょっと記憶を探ってみるのも楽しいかもしれませんね。
「たなぼた」「どろなわ」「やぶへび」「かもねぎ」と全部、平仮名で表記した時に4文字になっているのにはお気づきになったでしょうか?
元のことわざの長さはバラバラですが、省略された結果は、全部、平仮名表記で4文字になっていますね。なぜなんでしょうか?
ちょっと周りの省略語を思い出してみてください。
- ラジカセ(ラジオ・カセット 死語かな…)
- パソコン(パーソナル・コンピューター)
- リストラ(リストラクチャ)
- ビー玉(ビードロ玉)
- カラオケ(空オーケストラ)
他にもいろいろありますが、わりと4文字のパターンが多いのにお気づきでしょうか。もちろん「バイト(アルバイト)」のように3文字のものもありますが、4文字になるのがかなり多いようです。
日本語の音の単位に「拍」というのがあります。平仮名で表記される場合、1文字が1拍に相当します。拗音(ゃ、ゅ、ょ)は前の文字と合わせて1拍です。伸ばす音や、促音(っ)、發音(ん)も1拍です。「ビー玉」の「ー」も1拍ということです。
日本語はこの「拍」という単位があるのが特徴的で、時間的にはほぼ同じ長さで発音されます。音の高低の違いを取り除くと「タタタタタタタ」と小気味好く響くのが日本語です。名詞の平均的な長さが4拍程度とされています。どうやら日本人には4拍(平仮名4文字)というのが「落ち着く」長さのようなのです。
つまり、「平仮名4文字が落ち着く長さ」ということで「たなぼた」「どろなわ」「やぶへび」も、みんな4文字の形になっているのですね。必ずしも4文字ではないのですが、5文字ではどうも「長い」という印象があります。みなさまどうでしょう?
この「タタタタ」という音の連なりが身につくと、日本語らしいリズムができます。ですから、外国人の日本語学習者はまずこの音の連なりを練習すると、比較的早くに、「癖のある日本語」から脱出できるということもあります。これが不思議なぐらいに即効性があって、びっくりしたこともありました。
その言語の特徴的なリズムを身につけるというのは、外国語学習でも必須のポイントだと感じた体験でした。
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