「等級」から見る厚生年金保険料の決まり方 標準報酬月額と保険料の関係
「等級」から見る厚生年金保険料の決まり方 標準報酬月額と保険料の関係
厚生年金保険料は報酬額をもとに算出される。その報酬額をある程度の範囲に分けて計算を適切に行えるよう調整しているものを「等級」と呼ぶ。等級を通して保険料決定までの流れを見ていけば、その仕組みはより簡単に把握できる。
厚生年金保険料における等級
厚生年金保険料は標準報酬月額と標準賞与額をもとに決められる。基本給に残業手当などを含めた給与額から算出したのが標準報酬月額、ボーナスなどをもとに算出したのが標準賞与額だ。
標準報酬月額と標準賞与額それぞれに共通の保険料率、18.3%を掛け、その和を1年分の厚生年金保険料とする。会社側と労使折半するため、会社員側が支払うのは半額分、保険料率にして9.15%分となる。
標準報酬月額と標準賞与額のうち、保険料額において大きな比重を占めるのは基本的に標準報酬月額の保険料だ。その標準報酬月額の保険料計算にあたっては厚生年金保険料額表を参照する。
厚生年金保険料額表とは標準報酬月額、報酬月額の範囲、保険料額を一覧にして示した表である。等級という番号によって一定の幅で区分されており、各等級はそれぞれに設定された特定の標準報酬月額とそれに対応する報酬月額の範囲、保険料額を1つの行で示している。
報酬月額と標準報酬月額、保険料額は等級によって1つの階層にまとめられているため、報酬月額がわかっていれば標準報酬月額と保険料額もすぐにわかる。ただある程度の幅をもって区分される報酬月額と、その報酬月額の1区分ごとに特定の金額が設定される標準報酬月額は多くの場合一致しない。
例えば報酬月額が25万円だった場合、標準報酬月額は26万円になる。もし報酬月額が23万以上25万未満の範囲内なら16等級に定められた標準報酬月額24万円になる。だが25万に達すると17等級の報酬月額範囲25万以上27万円未満に該当し、標準報酬月額は26万となる。当然報酬月額が26万円でも26万5,000円でも標準報酬月額は26万円だ。このように固定された標準報酬月額と実際の給与額との間には多少のずれが生じる。
等級の範囲
2017年9月以降分の厚生年金保険料額表は1等級から31等級に分けられている。等級の番号が大きくなるにしたがって対応する報酬月額は高くなる。それに伴って標準報酬月額も高くなり、必然的に保険料も上昇する。
2017年9月以降分においては1等級と31等級がそれぞれ下限と上限になる。最も低い1等級は報酬月額が9万3,000円未満の範囲であった場合に該当し、その標準報酬月額は8万8,000円だ。
最も大きい等級31は60万5,000円以上の報酬月額に対応しており、その標準報酬月額は62万円である。給与額が60万5,000円以上なら、標準報酬月額は等しく62万円となる。
等級の違いが及ぼす影響
等級が1つ違った場合、実際1年間の厚生年金保険料にはどれくらいの差が生まれるのだろうか。報酬月額34万円の場合と36万円の場合を比較してみる。計算に標準賞与額分の保険料などは含めない。
報酬月額34万円だと21等級の範囲33万円以上35万円未満に該当するため、標準報酬月額は34万円となる。報酬月額が36万円だと22等級の範囲35万円以上37万円未満に該当するため標準報酬月額は36万円となる。
各金額に9.15%を掛けると標準報酬月額34万円の場合は3万1,110円、標準報酬月額36万円の場合は3万2,940円だ。1年分だと、前者は37万3,320円、後者は39万5,280円となる。月に1,830円、1年で2万1,960円の違いが生まれる。
なお等級が1つ違えば、標準報酬月額は数千円から数万円ほど違ってくる。そして等級が上がるにつれて等級間の差額はやや広がる傾向にある。
1等級の標準報酬月額は8万8,000円、2等級だと9万8,000円、3等級10万4,000円、4等級11万円というように、一桁の等級だとその間の差異は6,000円から1万円未満だ。
全等級の中間あたりからは差がより広がってくる。14等級から15等級に上がると20万円から22万円になり、2万円の差が生じる。23等級38万円から24等級41万円になれば差は3万円と、もう少し大きくなる。
1つの等級が対応している報酬月額の幅も、標準報酬月額と同じように等級が上がるにつれてやや広がる傾向にある。保険料もそれに対応して等級間の差額は少しずつ広がっていく。
報酬月額と標準報酬月額の決め方
厚生年金保険料を計算するなら等級と標準報酬月額の確認が必要となる。ただ等級、標準報酬月額の前に、そのもとになる報酬月額がどう算出されているかを知ることも重要だ。
報酬月額となるのは原則4月、5月、6月の3ヵ月間に受け取った報酬総額を平均した金額である。いずれの月においても給与計算の対象となる日数、支払い基礎日数が17日以上あることが基本的な条件となる。
3ヵ月間の報酬には、基本給に加え各種の手当が含まれる。残業手当、通勤手当、役付手当、住宅手当、家族手当などがその一例だ。それらの手当などを含んだ税引き前の給与3か月分の平均額が報酬月額となり、同時に標準報酬月額の判断材料になる。
標準報酬月額は基本的に年1回、定時決定という方法で決められる。7月1日時点において事業主に使用されている全被保険者の標準報酬月額を、4月から6月の給与をもとに報酬月額を計算したうえで導き出す方法だ。同年9月から翌年8月まで、その標準報酬月額が保険料算出の基礎となる。
仮に4月、5月、6月の報酬がそれぞれ36万円、37万円、38万円だった場合、平均額は37万円となる。37万円は23等級、報酬月額37万円以上39万5,000円未満の範囲に含まれるため、標準報酬月額はその範囲に設定された38万円に決定する。これに労働者負担分の保険料率9.15%を掛け、月額で3万4,770円、1年分で41万7,240円が標準報酬月額に基づく保険料となる。
特定適用事業所に勤務する短時間労働者、契約社員や準社員、パートタイマー、アルバイトなどの人の場合は、主に支払基礎日数の面で正規社員とは条件が異なる。4月、5月、6月のどの月の支払基礎日数も11日以上なら、定時決定にて算定される。
もし給与額が突然変わったら
標準報酬月額は定時決定にて通常決まり、9月から1年間は原則変わらない。そのため会社の繁忙期などが1年の保険料額に大きく影響する場合がある。4月から6月の給与算定の対象となる時期に通常より多く働き給与額が高くなると、同年9月から1年間の保険料がより高くなってしまう。このような事態はもちろん、4月から6月以外の月にも起こり得る。
給与額が大きく変動しても、一度決まった標準報酬月額は変わらないのだろうか。実際には一定の条件を満たせば翌年の定時決定を待たずに改定される。この改定を随時決定と呼ぶ。随時決定が行われるのは主に3つの条件を満たした場合である。
条件の1つは昇給または降給等による固定的賃金の変動だ。固定的賃金とは支給額や支給率が決まっている賃金である。例えばベースとなる基本給、日給、時間給、請負給等、また住宅手当や役付手当等の固定的手当などが該当する。ほかに日給から月給への変更といった給与体系の変更時も当てはまる。
もう1つの条件は、変動があった月からの3ヵ月間に支給された報酬より算出された標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じることである。この報酬には残業手当等の、状況によって変化する非固定的賃金を含む。
最後の条件は変動月からの3ヵ月間の支払基礎日数が17日(特定適用事業所勤務の短時間労働者は11日)以上だということである。この3つの条件を全て満たした場合、随時改定が行われる。
随時改定の例外
規定の条件を満たしていなくとも随時改定される場合はある。例えば企業の業績が悪化した時などに従業員を一時的に休職させる一時帰休のため、継続して3ヵ月を超えて通常より低い休業手当が払われた場合だ。また一時帰休が解消されて報酬が通常の状態まで戻った場合なども、随時改定の対象になり得る。
固定的賃金の変動月から3ヵ月間の標準報酬月額が2等級以上変更されてなくても、場合によっては対象になる。等級の上限、下限に係る変更があった場合である。昇給時であれば30等級から31等級になる時や1等級から2等級になる時だ。降給により31等級から30等級に、2等級から1等級になる場合も該当する。
逆に2等級以上の変更があったとしても、次のケースは随時改定の対象にならない。1つは固定的賃金が上がっても非固定的賃金が減ったために変動後の3ヵ月間に報酬平均額が下がり、2等級以上の差が出た場合だ。もう1つは固定的賃金が下がっても非固定的賃金が増え変動後の3ヵ月間の報酬平均額が上がり、2等級以上の差が生じた場合である。
そのほか病気や怪我、家族の事情などで長期間会社を休む必要に迫られた際、休職して休職給を受けた場合は固定的賃金の変動がある場合とはされない。したがって随時改定の対象にはならない。
実際に随時改定の対象となるのは
随時改定の対象になる場合の具体例をあげる。対象になる前の状態は報酬月額30万、うち基本給24万円、各種手当等6万円とし、それから昇給と残業手当等の増加により報酬が増加したケースを想定する。
基本給は昇給によって1万円上がり25万に、手当等は4万円足され10万円になり、報酬月額は合わせて35万円へと変更された。翌月、翌々月も基本給はそのままで、手当等はそれぞれ9万円と11万円であった。支払基礎日数はいずれの月も20〜22日の範囲に収まっている。
変動月からの3ヵ月間における報酬総額は35万円と34万円と36万円の和で105万円となり、月数の3で除するとその平均額は35万円となる。こうして標準報酬月額は30万円から36万円へと変更された。
等級としては19等級から22等級への変更である。等級は2つ以上変動し、ほかの条件も満たしたため、この場合は随時改定の対象となる。仮に変動月からの3ヵ月間が10月から12月だった場合、随時改定の反映は翌1月に行われる。(ZUU online編集部)
Source: 株式投資