なぜ「数字に強い常識人」でもお金儲けには失敗するのか?
なぜ「数字に強い常識人」でもお金儲けには失敗するのか?
(本記事は、加谷珪一氏の著書『あなたの財布に奇跡が起こるお金の習慣』かんき出版、2014年12月15日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
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なぜ、数字に強くロジカルな人でも、お金儲けに失敗するのか
数字に強く、論理的に物事を把握できれば、天才でなくても、大きなお金が稼げるチャンスがある
だが世の中には、これらの要件を満たしていても、お金儲けがまったくダメという人がいる。このような人は何が問題なのだろうか?このケースにあてはまる人は実は意外と多いかもしれないのだ。
以前、筆者は知人と共同である事業をスタートさせることを計画したことがある。当時、筆者はすでにいくつか事業を行っていたが、知人はまだサラリーマンであった。
筆者は知人から、会社を辞めて事業を始めたいのだが、共同でスタートできないかと頼まれていたのだ。彼としては多少のリスクヘッジをしたかったのだろう。筆者は当時あたためていたアイデアがあったので、彼と共同でプロジェクトを始めることについて検討してみたのである。
その事業プランは、筆者が昔、似たようなパターンで成功させたものだったので、うまくいく確率はそれほど低いものではなかった。筆者はそのビジネスモデルについて知人に説明したのだが、そこからが面倒であった。
彼がいろいろとリスク要因を並べ立て否定的なことを言い始めたのである。しかもその内容は、どこかで聞いたことがあるようなことばかりであった。彼はサラリーマンなので、まだ経験が浅いからなのかもしれないと考え、筆者はしばらく反論を控えていた。
筆者はそのプラン以外にもいくつかのアイデアを出してみたのだが、知人はどれも気に入らないようだった。筆者は「君も何かアイデアを出してくれよ」と言ってみたが、彼は「なかなかベストなものがないんだ」といって結局、具体的なプランを出してこなかった。
筆者は「先のことは分からないが、とりあえず似たようなパターンで成功したモデルだから私の案でやってみないか」と提案したが、彼は不本意そうであった。
最終的に筆者は、彼にはお金儲けは無理と判断し、この件は自然消滅した。彼は、その後、事業を始めることはなく、より規模の小さい会社に転職しただけであった。
同じようなケースはほかにもある。
筆者の取引先の一社に勤める人物が、あるとき、筆者にビジネスの相談をしてきた。独立して事業を始めたいのだが、筆者の会社と同じようなビジネスをしたいという内容であった。
最初、彼が何を求めているのかよく分からなかったが、話をよく聞いてみると、要するに筆者の会社の事業モデルでフランチャイズのような形をとりたいということのようであった。
筆者の会社にはそういったシステムは存在していなかったが、彼とは以前からの付き合いということもあり、一定のロイヤルティを支払ってくれるのであれば、検討してもよいと考えた。
彼にはその旨を伝え、具体的な話になってからがやっかいであった。筆者が提示したロイヤルティの額が承服できないようなのである。彼はダイレクトに、もっと安くしてほしいとは言わない。だが、「うーん」と考え込んだきり、返事をしてこないのだ。
彼はいくらなら納得するつもりなのだろうか?結局いろいろと質問をしてみると、実質的にタダでのれん分けをするような形を望んでいるようだった。
筆者は、さすがに参ってしまい、「これだと、あなたはタダで事業のノウハウを分けてほしいと言っていることになりませんか」と尋ねてみた。彼は「確かにそういうことになると思います」と答える。
筆者が「それでは、私にメリットがなくなってしまうとは思いませんか」と聞くと、「確かにそうなんですが……」と口を濁してしまう。
要するにそこを何とかならないのかということらしいのだ。この条件を引き受ける人など世の中に存在するわけがない。結局、この件も自然消滅となった。
「自分の得」だけを主張するとチャンスが逃げていく
最初に紹介した知人は、筆者と共同経営を持ちかけてきたにもかかわらず、自分からはアイデアを出さず、筆者が出したプランはすべて拒否してしまった。ならば自分で事業をやればよいのに、筆者と一緒にやりたいという。
次の知人は、自分だけにメリットのある契約を結びたいと言っている。本人はそれが一方的で理不尽であることをよく認識しているのだが、何とかお願いしたいと言い続けている。
2人ともかなり頭はよい人で、筆者が論理的に説明すれば、自身の言動が矛盾していることは理解する。また普段の行動が自分勝手でワガママということもない。むしろかなりの常識人にすら見える。
だが本人の主張を整理すると、自分だけが得をするように何とか妥協してくれないかと筆者に頼んでいるのである。
こうした矛盾した言動はなぜ生じてしまうのだろうか?
それは意外にも、お金に対する過度の執着が原因となっていることが多い。筆者に事業の相談をしてきた2人は、お金を稼ぎたいから事業を立ち上げたいと考えたに違いない。事業はお金儲けの手段である、お金に執着するのは決して悪いことではない。
だがおそらく彼らは、サラリーマンとして稼いでいる現在の給料に対してもかなりの執着があるのだ。
だが、その金額だけでは満足できず、もっとお金を稼ぎたいと考えている。その結果、筆者に対して、自分が絶対に儲かるように取りはからってほしいという、奇妙な依頼をする結果となってしまったのだ。
いくら論理的に物事を理解できても、あるいは数字で状況を判断することができても、そこで得られた結論や考え方を実際の行動に反映させなければ意味がない。
彼らは、自身の主張が矛盾に満ちており、相手に何のメリットももたらさないことを頭では理解しているのだ。だがお金を失いたくないという執着が強すぎ、組み立てた論理とはまったく逆の行動を取ってしまっている。
話のレベルは少し違うが、彼らの言動は、いかにも怪しい高利回りの投資商品を騙されて買ってしまう人の心理にも似ている。
こうした投資商品の購入者は総じてお金に対する執着が強い。このため高利回りの商品に対して強烈に惹かれてしまう。だが彼らもバカではない。リスクもなく相場以上の利回りが保証されることなどあり得ないことは頭では分かっているのだ。
ではなぜ彼らは騙されてしまうのか?
実は、こうした商品の多くは、腕利きの営業マンが「絶対に安全です」と言い切って販売していることが多い。購入者は、この商品が欲しいという思いが先に立っているので、こうした説明を鵜呑みにしてしまう。というよりも、その説明を信じたいという欲求に強く支配されてしまうのだ。
その意味では、先の2人も条件が揃えば容易に他人に騙されてしまうタイプなのかもしれない。はっきり断ったのは、彼らのためでもあった。
お金儲けを成功させるには、論理と行動を一致させることが重要である。そして、逆説的だがお金に対してはあまり執着しないのが得策である。
加谷珪一(かや・けいいち)
東北大学卒業後、ビジネス系出版社に記者として入社。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。現在は、ビジネス、経済、マネー、IT、政治など、多方面の分野で執筆活動を行う一方、億単位の資産を運用する個人投資家でもある。著書に『お金持ちの教科書』『大金持ちの教科書』(以上、CCCメディアハウス)がある。
Source: 株式投資