ユーティリティトークンの価格算定の理論と具体例
ユーティリティトークンの価格算定の理論と具体例
ユーティリティトークンの価格が単純なマネーサプライの式[1]で推計できるという話であるが、理解できないという声が多いので簡単に解説しておく。(括弧内はコインに当てはめた場合)
M = (P×Q)/V
M=Money supplyマネーサプライ (コイン時価総額)
P=Price価格 (提供サービスの価格)
Q=Quantity数量 (サービスの消費量)
V=Velocity回転率 (コインの回転速度、支払いサイクル)
まず、ユーティリティトークンとはなにか?であるが、ユーティリティトークン(以下UT)は、その名の通りユーティリティ(=利用価値)があるトークンのことをさす。
例えば、そのトークンを消費すると、P2P上のディスクスペースが使えたり、VPNが使えたり、もしくは、他人の車に同乗できたり、空き部屋に泊まれたりする。
UTの代表はイーサリアムで、これはイーサリアム・ヴァーチャルマシンという24時間とまらず計算結果を改ざんできないコンピュータを利用するために、処理の1ステップごとにGASを支払う。ETHはその支払い通貨だ。
UTは、もっぱらその提供されるサービスそのものに価値がある。ディスクスペースを提供するコインであれば、ディスクスペースを借りられるということに価値の100%が存在する。ディスクスペースを借りることができなくなったら、そのコインの価値はなくなってしまう。UTにおいては、サービス提供者(またはネットワーク)がどのようなサービスを提供するのかということに価値のすべてが懸かっているといってよい。
UTのトークン時価総額は、そのネットワークが提供する価値の総額を、貨幣の流通速度で割ったものである。
簡単な例を出そう。たとえば、P2P上のディスクスペースを提供するコインがあったとする(ディスクコインとする)。Dropboxと同じサービスを提供する競合になる。コインを支払うと、Dropbox同様にディスクスペースを借りることができる。ネットワークは自体はPOSで動くが新規コインは生成されず、マイナーはディスクスペースを他人に貸し出すことで手数料としてコインを得ることができる。コインは循環する。
ディスクコインの価格は、Dropboxを参考に考えると容易に推測が可能だ。
Dropboxは先日上場したばかりなので、その資料を見ると
- ユーザー数 5億人
- 一人あたり売上 111.91 ドル
- 売上高 11億680万ドル
法人ユーザーや無料ユーザーも含むので、ユーザー数x単価=売上にはなってないが、参考になる。
仮に先のコインがDropboxの市場をまるごと奪ったとしよう。つまり、将来において11億ドルの市場を全部うばったとする。
まず、年間11億ドルのそのサービスに対する支払いがあるのだから、ディスクコインの価値の総量(P×Q)は、11億ドルだと言える。
次に、コインの流通速度(V)を考える。流通速度とは、マネーサプライに関わる項目だ。もし、このサービスが1年間に1回の年払いだけしか受け付けていなければ、ユーザーは1年間コインを保持して、1年に1回だけ払うだろう。とすれば、年間に必要なコインの総量は、年間11億ドル分まるまる必要になる。
しかしながら、年に12回にわけてみんなが利用すれば、コインの総量は12分の1で済む。それだけコインが回転するからだ。これは、一般的なマネーサプライの話と一緒で、日本円の発行数が日本のGDPより少ないのと一緒である。GDPと同じだけ発行しなくても、日本円は日々回転して流通していくのでその瞬間だけを考えると不足しない。
さて、ディスクコインの流通速度(V)はどのくらいだろうか。精緻なモデルをつくれば推計は可能だが、ここでは例示なのでざっくりとだけ考える。P2Pのディスクスペースは必要に応じて必要なだけ買うといった形になるので、支払い間隔はとても短いだろう。たとえば数日〜1ヶ月といった範囲になりそうだ。間をとって、14日としよう。すると
- V =365/14 = 26となる。
最終的な必要なマネーサプライ(コインの時価総額)は、
- M = 11億ドル/26 = 42 百万ドル である。
これだけのコインが流通してれば、このネットワークは年間11億ドルの価値をやり取りするに十分ということになる。
もしこのコインが、100百万枚発行されていたとすれば、1コインあたりの価格は、0.42 ドルになる。
また、ユーティリティトークンには有名な矛盾がある。コインの価格が上がってしまうと、支払い額もふえてしまい、ユーザーにとっての利便性も下がってしまうということだ。
たとえば、先ほどのディスクコインだが、1GBのスペースを1コインで買えるという価格設定だったとする。コインの価格が10倍に高騰すると、ディスクスペース価格が10倍になり、ユーザーは不便を強いられ競争力を失う。
このため、コインとサービス価格を固定値で結びつけるのではなく、何らかの調整機能が必要だろう(Ethereumはそのような機構がある)
このように常識的に考えると、UTの時価総額はおしなべて大きな数字には成り得ないはずである。
しかし、実際には、UTの時価総額はスカイロケットのように高い価格をつけている。
これには幾つか理由がある。
- 市場参加者のレベルが低いため、妥当な価格算定を行うことができない可能性
- コイン側の提供情報が少なく、価格算定の根拠が難しい場合
- まだサービスが提供されていないため、実利用ではなく、投機仕手戦のみで価格がついている可能性
実際には、1と3が大きいだろう。となると、これらのUTコインの価格が現実的な水準に収斂(つまり暴落)する事象がおきるとすれば、容易に推測がつく。つまり
- 市場のリテラシーが向上し、アナリストなどが分析をするようになり、UTコインのフェアバリューが明かされる
- サービスが実際にサービスINして使えるようになり、ユーザーはそのコインで受けられるサービス以上のものをそのコインに支払わなくなった場合
UTコイン以外のコイン、つまり貨幣としてのコインと、配当が得られるトークンについての話も、リクエストがあれば改めて書こうと思う。なお配当トークンのほうは証券とみなせばUTよりもっと簡単に価値算定できるし、算定方法は大学のファイナンスの授業を取ったひとなら議論の余地もないとおもうので、みなさんもやってみてほしい。
[1] An Institutional Investor’s Take on Cryptoassets-John PfefferSource: ビットコイン研究所
Source: 株式投資