なぜ、米国で「クレジットカード離れ」に歯止めがかからないのか? 「ローン残高」が一段と伸び悩む理由とは
なぜ、米国で「クレジットカード離れ」に歯止めがかからないのか? 「ローン残高」が一段と伸び悩む理由とは
米国でクレジットカードの「利用減少」に歯止めがかからなくなっている。背景には金利上昇に対する警戒も指摘されるが、理由はそれだけではなく、実は意外なところに見え隠れしている。今回は米国でクレジットカードの利用が減っている原因を様々な観点から分析するとともに、今後の見通しについてもリポートしたい。
2月の「クレジットカード利用」が一段と伸び悩む
2月の米消費者信用残高は前月比年率で3.3%増と3カ月連続で伸び率が低下している。特に注目されるのは、クレジットカードのローン残高がわずか0.2%増とほとんど変化が見られないことだ。1月も1.7%増と低調だったが、それをさらに下回っている。ローン残高は昨年10~12月期に前期比年率10.3%増と高い伸びを示していたのであるが、年が明けてから急減速している。
ローン残高は別名「個人消費のバロメータ」とも考えられているのだが、実際に米個人消費にも急ブレーキがかかっている。2月の個人消費はインフレ調整後の実質で前月比横ばいで、1月は0.2%減少している。個人消費は米GDP(国内総生産)の「約7割を占める」ことから、この調子でクレジットカードの利用が低迷した場合、米景気の急減速が懸念される情勢だ。
「先行きへの不安」が消費手控えを助長
その一方で貯蓄率は12月の2.4%から1月は3.2%へ上昇。2月はさらに上昇して3.4%となっている。
貯蓄を増やす理由としては「将来への備え」が考えられるが、米消費者の不安は意外にも労働市場にあることがニューヨーク連銀の3月消費者調査で明らかとなっている。
具体的な数字を紹介すると、今後1年の賃金の伸びは2.6%と前月から0.1ポイント低下、特に低所得層で大きく低下した。また、1年後の失業率が上昇している確率は34.4%と前月から2.1ポイント上昇、1年以内に失職する確率は12.8%から13.9%へと上昇している。さらに、自発的に職を離れる確率は21.4%から19.3%に低下、職を失った場合に仕事が見つかる可能性も59.7%から57.6%へ低下している。
このように、消費者の労働市場に対する自信が陰りを見せており、そうした「先行きへの不安」がクレジットカードの利用減少を助長している側面もあるといえそうだ。
実際、3月の米雇用統計では雇用者数の増加が10万3000人と予想を大きく下回り、失業率も4.1%と予想に反して横ばいとなっている。
3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では2018年の失業率は3.8%、2019年は3.6%と予想し、労働市場は改善が続くと期待している。しかし、消費者はこうした見通しには距離を置いているようで、むしろ楽観的な見通しに警戒感すら抱いているのかもしれない。少なくとも3月の雇用統計の結果を見る限りでは消費者の感覚のほうに軍配が上がったと言わざるを得ない。
ローン金利上昇や「モバイル決済人気」も一因
また、金利の上昇やモバイル決済人気もカードの利用減少につながっているようだ。
クレジット・カード・ドットコムの調べによると、4月4日の週のクレジットカードのローン金利は全国平均で16.62%となり過去最高に達した。前週は16.47%、6カ月前は16.15%だった。
ローン金利の上昇は3月のFOMCでの利上げが織り込まれたことによるものだ。少なくとも年内にあと2回の利上げが見込まれるほか、来年以降も利上げ継続が予想されており、消費者が金利の上昇に敏感になっていることがうかがえる。
ところで、決済会社TSYSの調べによると消費者のモバイル決済志向はますます強まっており、クレジットカード保有者の51%が店頭でのモバイル決済に興味を示している。2016年には40%だった。
実際にクレジットカードの代わりにスマホで決済をしたことがある人は2015年の7%から2017年は12%に増えており、特に若年層でその傾向が強い。クレジットカードを保有している25~34歳に限ると、45%がペイパル、ベンモ、ゼルといった個人間送金を利用している。
このように、金利の上昇でカードの利用を控えたいムードが広がる中で、モバイル決済人気が高まっていることも追い打ちをかける一因とみられている。
「忍び寄るインフレ懸念」を警戒
気がかりなのは「忍び寄るインフレ懸念」(ウォール街の市場関係者)が「さらなる利上げ観測を後押しする」(同)可能性も浮上していることである。
3月のCPI(米消費者物価指数)は前月比0.1%下落と昨年5月以来、10カ月ぶりの落ち込みとなった。ただし、ガソリン価格の下落の影響が大きく、食品とエネルギーを除くコア指数は0.2%上昇している。前年同月比では2.4%と2月の2.2%から伸びを加速。昨年9月以来、7カ月連続で2.0%以上を維持している。また、コア指数も2.1%と1月の1.8%から上昇し、2%の大台に乗せた。
3月のPPI(卸売物価指数)は前月比0.3%上昇、前年同月比では3.0%上昇した。物価の上昇圧力が強まっていることを示唆しており、CPIも2%は通過点となりそうだ。
3月のFOMCでは年内にあと2回の利上げが示唆されたが、「年内2%の物価目標」が達成可能な情勢となっており、利上げペースが一段と加速する可能性が強まっている。
国際情勢の緊張も「物価上昇」に拍車?
さらに、米中貿易戦争の激化や中東情勢の緊迫化もインフレ圧力に拍車をかける恐れがある。
米中双方から報復関税が発表されており、実施されれば輸出入物価の上昇を通じて世界的に物価上昇圧力が強まる見通しだ。
また、中東情勢の緊迫化で原油価格は2014年以来の高値を回復している点も気がかりだ。トランプ大統領がシリアへの空爆をほのめかす中、イエメンからサウジアラビアへ弾道ミサイルが発射された。サウジ対イランというコアな対立を囲んで、米国・イスラエル・サウジとロシア・イラン・シリアの反目が高まっており、米国が対イランへの制裁に踏み込んだ場合、原油価格はさらに上振れるリスクを内包している。
こうした状況を加味すると、金利上昇に一段と拍車がかかる可能性が高く、米国でさらなる「クレジットカード離れ」を招く恐れがある。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)
Source: 株式投資