米国の老舗KodakがICOを実施へ 上場企業がICOを行う意義とは

米国の老舗KodakがICOを実施へ 上場企業がICOを行う意義とは

2018年1月、米国の老舗上場企業KodakがICOを行うと発表し、大きな話題となった。

これまでは未上場企業が行うことがほとんどだったICOを、上場企業がどのように行うかに注目が集まっている。しかし2018年2月9日現在、ICOは事実上の延期状態にあることから、先行きを懸念する声も高まっている。KodakのICOの背景を調べるとともに、上場企業がICOを行うメリットや課題を考察してみよう。

ブロックチェーン・プラットフォームの売買に利用できる「Kodak Coin」

Kodak
(写真=Cineberg/Shutterstock.com)

近年はインターネットから簡単に写真や動画、イラストを入手できるようになった一方で、デジタル著作権をめぐるトラブルが増えている。消費者が所有権を知らないうちに侵害しているケースも多く、権利所有者が、無断で使用されている作品を追跡するのも容易ではない。KodakがICOを通して挑戦しようとしているのは、デジタル著作権を取り巻くグレーゾーンの明確化である。

KodakがICOで発行するトークン「Kodak Coin」は、同社が開発した写真家向けブロックチェーン・プラットフォーム「Kodak One」で利用される。「Kodak One」はいわば世界中からアクセス可能な著作権管理ツールで、プラットフォーム上でKodak Coinを「基軸通貨」として作品の売買を行う。

写真家はプラットフォーム上で、暗号化されたデジタル台帳に自分の作品の所有権を記録し、著作権使用許諾ライセンスを発行することができる。自分の作品をデジタル著作権で保護すると同時に、収入源を得ることができる画期的なシステムだ。

Jeff Clarke(ジェフ・クラーク)CEOは、自分の作品を権利関係も含めて抜け漏れなく管理するという写真家にとっての「難題」に対して、「ブロックチェーンや仮想通貨が解決のカギになるかもしれない」と述べている。Kodakは常に写真を民主化し、ライセンスが写真家にとって公平なものになるよう努めてきた。これらの先端技術を採用することで、Jeff Clarke CEOは写真家の課題解決に向けて一歩を踏み出せることができる、と確信している。

ICOに参加できるのは「適格投資家」のみ 承認に時間がかかり開始延期?

注目すべきは、ICOで発行されるKodak Coinは米の法律「1933年証券法」の「Regulation D(Rule 506)」に登録されており、法律が定める「適格投資家」のみが参加できるという点だ。このあたりから、国際的上場企業として通常のICOと一線を画そうとしているKodakの考えがうかがえる。

しかしKodakはなぜ、あえてICOという手段を選んだのか。デジタル著作権の管理システムを開発・提供するだけなら、わざわざICOを立ち上げる必要はないだろう。

同社は創業138年、世界中に6,000人超の従業員を抱える大手だが、近年はデジタル化の波に飲み込まれている。1997年には310億ドルだった時価総額が、ICO発表直前には1.3億ドルまで落ち込んでいた。恐らくKodakにとって今回のICOは社運を賭けた一手だったのだろう。

Kodakの思惑通り、2018年1月9日のICO発表直後、株価は3.10ドル(1月8日)から11.55ドル(1月22日)、時価総額は2.8億ドルまで一気に上昇した。しかしここにきて、微妙に歯車を狂わせる事態が発生した。「4万人を超える投資家がICOに興味を示しており、適格投資家の承認プロセスに数週間を要する」という声明文とともに、延期が発表されたのだ。

ICO開始延期の発表を受け、株価は2018年2月9日午後1時30分(ニューヨーク時間)には、株価は5.15ドルに下落した。Kodakは「ICOは滞りなく進んでおり、適格投資家の確認完了次第、書類を送付する」と投資家に安心感を与えようとしているものの、一度市場に生まれた不信感を払拭するのは至難の業だろう。

ニューヨーク・タイムズ紙コラムニストが指摘するKodak ICOへの疑念

こうした動きは、ICOに対するKodakの真意や対応能力に疑念を抱いた論調を引き出した。ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、Kevin Roose(ケビン・ルース)氏は、「Kodakのような伝統的な大企業のICO参加は最も物議を醸すかもしれない」との見解を示すと同時に、このICOを楽観視できない理由をいくつかあげている。

Kodakはプレセールで200万ドル分を発行した。しかし、ホワイトペーパーを見る限りその用途に関する情報が少ないことをルース氏は指摘した。また、わざわざブロックチェーンを利用しなくても同様の著作権管理システムを開発できるのではないか、なぜ写真家が現金ではなくトークンで報酬を受け取る必要があるのか――などについても言及した。

そもそもKodak Coinは自社の単独プロジェクトではなく、著作権やライセンスを発行する「WENN Digital」との提携でスタートした。WENN Digitalは2017年設立と歴史が浅く、情報もほとんど公開されていない。公式によると、「ブロックチェーン開発やビッグデータ、AIベースのイメージ認証の専門家集団が立ち上げた」としているが、ルース氏の調査ではカリフォルニアに拠点を持ち、パパラッチ写真の著作権発行を専門とする英国のエージェンシーとのことだ。

ICOによる全収益はWENN Digitalに流れる?

WENN Digitalの立ち上げメンバーの一人で、Kodak Coinの設計者であるCameron Chell(キャメロン・シエル)氏 は多彩な経歴の持ち主だが、2002年、アルバータ証券取引所における規制違反で2.5万ドルの罰金を課され、5年間の取引禁止処分を受けている。

さらに気にかかるのはKodakとWENN Digitalのライセンス発行業務に関する契約内容だ。ルース氏いわく、「ICOによる全収益はWENN Digitalに流れ、Kodakは全Kodak Coinsおよび将来的なロイヤリティーの3%とWENN Digitalの少数株を取得する」というのだ。つまり今回のICOの仕掛け人はKodakではなくWENN Digitalといっても過言ではない。

仮想通貨ヘッジファンド「MultiCoin Capital」のパートナー、Kyle Samani(カイル・サマニ)氏は、「上場企業がICOで株価を押し上げようとしている」、ブロックチェーン・コンサルタントのJill Carlson(ジル・カールソン)氏は、「自分がこのICOに関わっていたら心配で眠れない」などの意見が出ている。

ICO検討中の上場企業にとって、KodakのICOは課題発見の機会となった!?

「透明性に欠ける」との印象に加え、ICO参加者を所得20万ドル以上、あるいは純資産100万ドル以上の投資家に限定した点が、プラスに働くかマイナスに働くかは現状では不明だ。参加者を富裕層に絞ることで自社のICOに箔を付けることが意図だろうが、ルース氏が「いったい何人の写真家が、それだけの所得や資産を得ているのか」と指摘するのも、写真家の課題を考えるともっともといえる。

クラークCEOはICOへの意気込みを強調しているが、Kodakがどこまで前述した懸念点を把握しているのかは謎だ。すべて承知の上であえてICOに社運を賭けようとしているのか、あるいはICO発表後に問題が露見し開始を見合わせているのか――。

どのような結果に転んだとしても、今回のKodakの試みはICOを検討中の上場企業にとって、大きな課題を発見する機会となるだろう。

上場企業はICOを成功させる上で最も重要な「信用」をすでに確立しているという点で有利だが、それと同時に「提携」と称してICOのプロセスを専門的な知識があるからといって外部組織に全て任せてしてしまうのではなく、組織内部で明確に把握・管理することが必須となるはずだ。外部の力を借りるのであれば、技術や知識、経験の全てにおいて信頼を得ている提携先と組むべきだろう。繰り返しになるが、現時点ではKodakのICOがどうなるのか誰もわからない。大企業のICOがどのような結末を迎えるかは、すべて今後の動き次第だ。(提供:MUFG Innovation Hub

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Source: 株式投資
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