追証はなぜ支払わなければならない? 信用取引と保証金の仕組み

追証はなぜ支払わなければならない? 信用取引と保証金の仕組み

株式の信用取引とは、現物取引と何が違うのだろうか。最も大きなポイントはレバレッジを掛ける事ができる点である。担保となる保証金を差し入れる事で、手元資金以上の金額の取引ができる事は、信用取引の重要な特徴だろう。ただ、必要となる保証金は日々の株式の値動きによって変動し、状況によっては追加保証金(追証)が必要となるケースもある。信用取引を行うにあたっては、保証金の仕組みを理解し、適切なリスク管理を行う事が重要だ。

信用取引は最大3.3倍のレバレッジを掛けられる

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(画像=PIXTA)

信用取引とは、保証金を証券会社に差し入れる事で、それを基にした信用を創造し、手元資金を越える金額の取引が行える制度である。信用の担保となる証拠金は「委託保証金」と呼ばれ、現金での差し入れる他、株式や債券などの有価証券で代用する事も可能である。

信用取引では、最大で委託保証金の3.3倍までレバレッジを掛ける事が可能であると説明される。この3.3倍という数字は何を根拠に導かれているのであろうか。

委託保証金は売買額の30%以上かつ30万円以上が必要

信用取引を行うにあたって、差し入れる必要がある委託保証金であるが、その金額は信用取引での売買額の30%以上かつ30万円以上と定められている。つまり、100万円の取引を行う場合には、30万円の委託保証金を差し入れる必要がある。

委託保証金は売買金額の30%以上が必要となる為、委託保証金から見たレバレッジは約3.3倍となる。これが、信用取引のレバレッジが3.3倍であると説明される所以である。売買金額が100万円未満の場合、必要委託保証金額は30万円で固定となるので、レバレッジは3.3倍を下回る事となる。

なお、30%以上かつ30万円以上という数字については、金融商品取引法で定められた下限となっており、これを基に証券会社毎に任意で設定をする事が可能である。証券会社毎に定められたこの割合を委託保証金率と呼び、30%を超える比率で差し入れる事が必要な会社もある。取引前に各社の規約を確認しておくべきだろう。

委託保証金は現金だけでなく、有価証券での差し入れも可能

信用取引の担保となる委託保証金であるが、現金以外にも株式や債券などの有価証券での代用も可能である。現金を用意しなくとも、既に保有している有価証券を担保として活用できるため、便利な制度であるが注意すべき点もある。

それは委託保証金を有価証券で代用する場合、予め定められた掛目を時価に掛け合わせたものが委託保証金としての評価額となる点である。

例えば、多くの証券会社では上場株式の掛目は原則80%となっている為、100万円の信用取引を行うにあたっては37万5,000円以上の時価を持つ株式を保有している必要がある。

代用可能な有価証券の範囲やそれぞれの掛目は証券会社毎に異なる為、予めしっかりと確認しておく必要があろう。また上場株式でも銘柄によって掛目が異なるケースや、各資産の掛目が変更されるケースもある。委託保証金を代用有価証券で用意する場合、リスク管理には特に気を付けたい。

なお代用有価証券と信用取引で買い付ける有価証券が同一銘柄である取引は「二階建て取引」と呼ばれる。この場合、株価の上昇は大きな利益をもたらす反面、株価下落時には、委託保証金と信用取引での買付銘柄が共に値下がりする事を意味し、ハイリスクな取引となる。この「二階建て取引」は、証券会社毎に規制を設けているケースも多い為、合わせて理解しておきたい。

必要委託保証金は日々変化する

このように、売買金額の30%以上かつ30万円以上の保証金を証券会社へ差し入れれば、信用取引を始める事が可能となる。ただ、取引を行う有価証券には日々値動きが生じる為、必要な委託保証金も日々変動していく事となる。

最初に差し入れる委託保証金は、あくまでも取引開始時に必要な委託保証金である。その後、取引を行う有価証券の値動きによって、取引額における委託保証金の比率(委託保証金維持率)も変動する事となる。信用取引においては、この委託保証金維持率を一定以上に保つ事も求められるのである。

委託保証金維持率は20%以上のキープが必要

信用取引を行う場合、委託保証金維持率には常に意識しておく必要がある。委託証拠金維持率を一定以上の水準に保つ事は、有価証券が値動きをする中で、差し入れた担保の金額が適正である状態を維持する事に等しい。

では、委託保証金維持率は何%以上が求められるのだろうか。金融商品取引法においては、最低委託保証金維持率は20%以上が必要であると定められている。ただ、これは法律の定める下限であり、委託保証金率と同様、これを基に証券会社毎に任意で設定をする事が可能である。委託保証金維持率も証券会社間での違いが大きい為、こちらも確認をしておきたい。

一定水準以上に保つ事が求められる委託保証金維持率であるが、どのように計算すればよいのだろうか。

委託保証金維持率の計算方法とは?

委託保証金維持率の計算は、差し入れた保証金に対し、現状の損益額やコストなどを差し引きして求められる。具体的には、次の計算式で計算される。

委託保証金維持率=(委託保証金−建玉評価損−諸経費など+決済損益)×100÷建玉金額

分子となるのは、委託保証金から評価損と諸経費を引き、確定損益を加減した金額だ。諸経費とは、買付時の金利や売付時の貸株料、品貸料や逆日歩などが含まれる。委託保証金を代用有価証券で差し入れている場合は、その代用有価証券の値動きによって、委託保証金の評価額も変動する点にも注意が必要だろう。

例えば、委託保証金90万円を現金で差し入れており、300万円分の信用買付を行っているケースにおいて、50万円の評価損が発生した場合、委託保証金維持率は次のようになる。

委託保証金維持率=(90万円−50万円)×100÷250万円=16%

諸経費などは計算に含んでいないが、この場合、委託保証金維持率は16%となってしまい、最低委託保証金維持率である20%を下回る事となる。この場合、最低委託保証金維持率である20%を保つ為、追加の保証金差し入れが必要となる。それが、追加保証金(追証)だ。

最低委託保証金維持率をキープする為に追証が発生

前述の通り、信用取引とは担保となる委託保証金を差し入れる事によって、信用を創造する取引である。日々の値動きの中で、必要となる委託保証金額が変化する事となるが、委託保証金が不足した場合には、追加で担保を差し入れなければならない。それがいわゆる追証である。

先程の例で説明すると、委託保証金維持率は16%となっており、最低保証金維持率が20%である場合、それに届くよう追加で保証金を差し入れる必要が生じる。必要な追証は次のように計算する。

必要委託保証金額=250万円(建玉金額)×20%(最低委託保証金維持率)=50万円必要追証額=50万円(必要委託保証金額)−40万円(委託保証金評価額)=10万円

このケースでは10万円の追証を支払う必要が生じるのである。

追証はいつまでに支払わなければならない?

追証の発生は、信用取引において多くの投資家の悩みの種である。追証の面倒な点は、即座の差し入れが求められる事であろう。証券会社によって違いはあるものの、追証は発生日の翌営業日か翌々営業日に差し入れる必要がある。また、自身で建玉を決済する事での解消も可能であるが、いずれにせよ時間の猶予が無い為、追証の発生には十分に注意して取引を行いたい。

追証が発生した場合において、期日迄の差し入れができない場合には、証券会社による強制決済となる。建玉の反対売買や代用有価証券の売却が行われ、不足金に充当される。強制決済のタイミングは各証券会社の規約に則る事となる為タイミングは選べず、それでも不足金が解消されない場合には入金が必要である。

追証を防ぐ為には

追証の発生は、急な資金の捻出や強制決済によって投資計画を狂わせる事となる為、極力避けたいところである。追証を防ぐには保証金の仕組みを理解し、余裕を持った投資計画と適切なリスク管理が最も重要である。

追証は委託保証金維持率の低下によって発生する。委託保証金維持率には十分注意を払い、追証の発生するラインから十分余裕を持った運用を心掛るようにするべきだろう。信用取引は最大で約3.3倍のレバレッジを掛ける事が可能である。ただ、レバレッジを3.3倍で掛けてしまうと、追証も発生しやすくなると言える。自身の投資余力や相場観も加味し、適切なレバレッジを掛ける事が追証を回避する適切なリスク管理であると言える。

信用取引の保証金に関するルールは各社で異なる

ここまで、信用取引に関わる保証金について説明を行ってきたが、保証金に関するルールは証券会社各社で異なるという点には十分に注意したい。

例えば、信用取引を始める際の委託保証金についてであるが、金融商品取引法上は売買金額の30%以上かつ30万円以上と定められているが、実際の運用は証券会社によって異なっている。SBI証券の場合は、委託保証金は売買金額の33%以上かつ30万円以上と、委託保証金率が法律で定める下限よりも3%高くなっている。一方で楽天証券では、売買金額の30%以上かつ30万円以上と法律の下限に沿った運用を行っている。

同様に、最低委託保証金維持率についても、SBI証券や楽天証券は法律の下限に沿って20%と置いているが、マネックス証券では25%とそれより高い数字を下限としている。

他にも、代用有価証券として利用可能な種類やそれぞれの掛目、追証発生後のルールなど、信用取引では各社毎に異なるルールを設けている事が多い。信用取引を行うにあたっては、まず大枠の仕組みを理解した上で、各社の規約を把握する必要があろう。

信用取引は手元資金を超える金額を取引する事ができる、ハイリスクハイリターンな取引である。適切なリスク管理を行う為にも、保証金についての理解を深めておきたい。(ZUU online編集部)


Source: 株式投資
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