TOKIOショック、CM差し替え…それでも「クロネコ宅急便」は進化を続ける? 株価は18年ぶり高値
TOKIOショック、CM差し替え…それでも「クロネコ宅急便」は進化を続ける? 株価は18年ぶり高値
TOKIOの「山口達也問題」で番組やCMの対応に追われた企業は多い。ヤマトホールディングス(HD) もその一社である。グループ傘下のヤマト運輸が宅急便のCMでTOKIOを全面的にフィーチャーしていたからだ。
5月1日、ヤマトHDの決算発表が行われたのはそんな状況下だった。内容は予想を上回るポジティブサプライズで株価は一時18年ぶりの高値まで上昇する場面も見られた。「TOKIOショック」を乗り越え、クロネコ宅急便は進化を続けることができるのだろうか。今回はヤマトHDにフォーカスしてみよう。
「進化する宅急便」TOKIOのCMは差し替え
筆者は『ザ!鉄腕!DASH!!』のファンである。日曜日19時からの同番組を20年近くも楽しく観てきた。事件発覚後、TOKIOが出演するCMが次々と打ち切り・差し替えとなる中、なんとなく彼らのCMをネットで探していて気づいたことがある。それはヤマト運輸のCMシリーズ「進化する宅急便」が、文字通り同社の進化を象徴していたことだ。
このCMシリーズにはTOKIOの5人が登場する。全員出演の「全員で届ける篇」、長瀬智也の「産地直送篇」「ロッカー受け取り篇」、城島茂の「匿名配送篇」、国分太一と松岡昌宏の「手ぶら観光篇」などをテレビで放映するとともに自社サイトのアドギャラリーでも公開していた。ちなみに、事件発覚後は同社のアドギャラリーからこのCMは削除されている。素晴らしいCMだっただけに残念でならない。
それはさておき、クロネコヤマトの宅急便は本当に「進化」と呼べるほど使い勝手が改善している。たとえば、近所のセブン-イレブンにクロネコヤマトの宅配ボックスが設置されたのをご存知の人も多いことだろう。ここでの受け取りを指定しておけば、自宅に不在でも、自宅に宅配ボックスがなくても、24時間受け取り可能なのだ。また、クロネコメンバーに登録しておくと、事前に荷物が届くことや配送完了がメールで通知されるのだが、それもLINEでできるようになった。再配達の依頼もLINEだとかなり簡単で使い勝手が良い。
「ロジスティックのコンビニ化」が進む
しかし、筆者が最も感心したのは「手ぶら観光」である。観光地などでクロネコヤマトカウンターに行けば、荷物一時預かりやお土産の宅配手配だけでなく、観光案内もしてくれる。さらに、当日配送でホテルや空港に荷物を転送するサービスもある。こうした拠点が、丸の内、銀座、羽田などに増えている。インバウンド客にも、観光庁認定「手ぶら観光」共通ロゴマークをつけてアピールしているが、すこぶる好評なようだ。
今後、「手ぶら観光」が地方の主要都市に拡大すれば、観光も出張も便利になるだろう。これは「ロジスティックのコンビニ化」だと筆者は考えている。コンビニの普及で消費が大きく変わったように、物流も大きく変わろうとしている。
ヤマト運輸は、「変わらないもののために変わり続ける」をテーマにしている。配送する荷物は「変わらない」けれども、サービスや使い勝手は変わり続けるという意味だ。
27年ぶりの値上げという「賭け」に勝利する
ところで、株式市場でヤマト運輸は「デフレ終焉」の象徴として注目されたことがある。2017年4月、宅配便最大手の同社が全面的な値上げを打ち出したときだ。個人向けのクロネコヤマトの宅急便を値上げするのは、消費税増税時などを除くと27年ぶりのこと。このニュースは前述の通り、長らく続いたデフレからの「脱却」の象徴として注目を集めた。
実はヤマト運輸はEC化の進展で荷物量が増加し、ドライバーの人手不足もあって、長きにわたり採算が悪化していたのである。にもかかわらず、それまで値上げできなかったのは、デフレもさることながら、EC化の荷物増に対応して「シェア重視の経営」をしていたからだ。それだけに、1年前の値上げは大きな「賭け」と呼ぶべき判断であったに違いない。すなわち、シェアよりも「採算」、シェアよりも「顧客へのサービス向上」、シェアよりも「従業員の労働環境改善」を目指した経営へと舵を切ったのである。
注目されるのは個人向け宅急便だけでなく、法人向けの大口契約についても値上げ交渉に入ったことである。たとえば、ヤマト運輸の荷物の1割から2割を占めるとされるアマゾンに対しても値上げ交渉に臨んだのだ。その結果、アマゾン向けは約4割値上げとなり、数量は減少した。一方のアマゾンはデリバリーポイントを各地に設け自社配送に切り替え始めるきっかけともなった。ヤマト運輸の「賭け」は日本郵便など同業他社にも波及、追随値上げを呼び、物流業界の構造を大きく変えることとなったのだ。
株価は18年ぶりに3000円を突破
5月1日に発表したヤマトHDの2018年3月期決算は、売上が前年度比4.9%増の1兆5388億円、本業の利益である営業利益が同2.3%増の356億円と増収増益となった。同社の営業利益ベースの過去最高益は2015年3月期の689億円。その後、人件費などのコスト増で増収ながらも2期連続の営業減益だったので、増益は3期ぶりとなる。先に述べた「値上げ」による採算改善の寄与が大きい。
ちなみに、昨年4月時点での2018年3月期の業績予想は、値上げで「シェアが落ちる」ことを想定して、売上で0.2%増の1兆4700億円、営業利益は14%減の300億円を見込んでいた。これに対し、実績では売上で予想に対して688億円、営業利益で56億円上振れる結果となった。また、2017年10月時点での宅急便の単価は約15%上がったが、宅急便の取り扱い実績は前期累計で18億3666万個と前年同期比1.7%減にとどまった。危惧したほど荷物量が大きく落ち込むことがなかったのだ。
法人向けの値上げも浸透しているようだ。法人顧客1100社との値上げ交渉では、約6割の顧客で値上げが通ったと見られる。値上げによる収益改善分を「働き方改革」で従業員の労働環境改善などに当てているようだ。
今期は値上げが通期で効いてくるので、2019年3月期の売上予想で4.0%増の1兆6000億円、営業利益予想で62.5%増の580億円が見込まれている。前期の上方修正と今期の大幅増益予想に株価は素直に反応し、一時は3010円と年初来高値を更新、2000年以来18年ぶりに3000円を超える場面も見られた。
「ロジスティック革命」は一段と加速しそう
ちなみに、ヤマト運輸は配達の効率化にも積極的に取り組んでいる。前述の通り、セブン-イレブンに宅配ボックスを設置したほか、ドライバーがお昼ご飯を食べられるように、ランチタイムの配送希望時間を廃止している。その一方で、在宅率が高い夜間配達の比率を上げるため、午後から夜間の配達に特化したドライバー「アンカーキャスト」の採用を始めるなど「働き方改革」も推進している。
さらにヤマト運輸は自動運転を活用したオンデマンド配送サービスの「ロボネコヤマト」の実験もスタート。アマゾンのドローン配送実験とあわせて「ロジスティック革命」は一段と加速しそうだ。
TOKIOショックを乗り越え、進化を続ける「クロネコ宅急便」。しかし、いつの日か「人間的に成長した」TOKIOのメンバーを再び起用した新CMも見てみたいものである。
平田和生(ひらたかずお)慶応大学卒業後、証券会社の国際部で日本株の小型株アナリスト、デリバティブトレーダーとして活躍。ロンドン駐在後、外資系証券に転籍。日本株トップセールストレーダーとして、鋭い市場分析、銘柄推奨などの運用アドバイスで国内外機関投資家、ヘッジファンドから高評価を得た。現在は、主に個人向けに資産運用をアドバイスしている。
Source: 株式投資