医療保険「不要論」が当てはまる人と当てはまらない人
医療保険「不要論」が当てはまる人と当てはまらない人
「人生100年時代」という言葉を耳にすることが増えた。多くの人が長生きをリスクと考えるようになりつつある。そして、長生きしている間に病気や事故で医療を受ける際の費用について不安に思う人も多い。多くの人にとって「病気を抱えながら長生きするリスク」が大きな不安となっている。このリスクをカバーする医療保険への関心は高いが、不要論を聞く機会も多い。それぞれの根拠を知り、自分にとっての要、不要を見極めよう。
「病気や事故」が生活上の不安のトップ
生命保険文化センターが生活保障に関する調査を実施、「生活上の不安」を尋ねたところ、自分や家族が「病気や事故にあうこと」が最も多かった(「平成28年度生活保障に関する調査《速報版》」)。
この「病気や事故」への不安は、他の選択肢——たとえば「自分や家族に介護が必要になること」や「死亡すること」「老後の生活が経済的に苦しくなること」——などを押さえてのトップである。
同調査は、「医療保障に対する私的準備状況」についても調べている。公的医療保険以外に私的に何らかの準備をしている割合は84.2%。準備手段は生命保険が72.9%、損害保険20.9%、預貯金42.0%、有価証券5.6%、その他0.5%となっている。
医療保険は近年契約数が増えている。生命保険協会による「生命保険の動向(2017年版)」によると、2016年に新規契約が最も多かったのが「医療保険」だという。
一方で、「民間の医療保険は要らない」という主張もある。インターネットで「医療保険」関連のキーワードで検索してみると、そのような主張をするファイナンシャル・プランナーや元保険マンのサイトがちらほら出てくるだろう。書店にも同様に「医療保険不要論」を唱える書籍が存在している。実店舗で平積みになっているものを見たことがある人もいるだろう。
長い人生で最も気がかりな「病気やケガ」。本当に医療保険で備える必要はないのだろうか。実は、医療保険の要・不要は、独立系ファイナンシャル・プランナーの中でも意見が分かれる。まずはそれぞれの主張の根拠を知り、そして自分はどちらにあてはまるか考えていこう。
医療保険不要論の根拠とは
インターネットや書籍で「医療保険不要論」を唱える専門家は多い。長い人生に病気やケガはつきもの、それにもかかわらず「医療保険」で備える必要はないという主張の根拠は何だろうか。
●「社会保険が手厚いので民間の保険に頼らなくても済む」説
日本には国民皆保険の制度があり、誰もが何かの社会保険に入っている。病気で困窮することがないよう、社会全体で助け合う社会保険が公的医療保険だ。サラリーマンであれば勤め先の被用者保険(健康保険や共済組合)、自営業やフリーランスの人は地域保険(国民健康保険)に加入しているはずだ。
加入者本人と被扶養者は「健康保険証」を持って医療を受ける。すると、70歳までは実際に掛かった医療費の3割の負担で済む。子供や高齢者は2割以下のこともある。これを公的医療保険の「自己負担割合」という。
そして、自己負担の金額が高額になっても、一定額に達するとそれ以上は負担しなくて済む制度もある。「高額療養費」と呼ばれる制度だ。
この一定額は、その人の標準報酬月額に応じて決まる。5段階あるが、真ん中の「標準報酬月額28万円から50万円」(年収370〜770万円)にあてはまるサラリーマンが多いだろう。この場合、自己負担限度額は「8万100円+(医療費−26万7,000円)×1%」となる。よって、10万円を大きく超えるような医療費を負担しなければならない可能性はあまり高くない。
医療費の負担が長期に渡ると、さらに負担が軽減される。「多数回該当」と呼ばれるもので、過去12か月以内に3回上限額に達した場合には、4回目から上限額が下がることになっている。先ほどの「標準報酬月額28〜50万円」で4万4,000円となる。
また、被用者保険では休業時の補償が手厚い。労働者は自分の労働力を差し出す以外に賃金を得る手段がないので、医療が発達していなかった時代には所得補償という側面が強かったという歴史的背景もある。
具体的には「傷病手当金」という制度で、病気やけがで仕事を3日以上続けて休んだ場合、4日目から最長1年6カ月支給される。1日当たり、直近の標準報酬月額12か月分の平均額を30で割った額の3分の2となる。
なお業務上のケガや病気であれば、労災保険から休業補償給付(通勤途中なら「休業給付」)が出る。これは賃金を貰えない日が4日以上あるときに、4日目から基礎日額の60%相当額が支給されるものだ。この基礎日額は直近3カ月の平均賃金とされる。
このように民間の保険を考える以前に社会保険が手厚いという事実は確かにある。
●「自己負担の医療費や関連費用は貯蓄で備えておいたほうがよい」説
社会保険の仕組み上、医療費の負担が青天井で高額になる可能性は高くない。長期間仕事を休んだサラリーマンの収入が、急に途絶えることもまずない。
高額療養費の限度までの自己負担額、それから公的医療保険では支給されない交通費や入院に掛かる雑費(衣料品や差額ベッド代など)は、貯蓄で備えることも十分可能だ。
必要な貯蓄額は人によってもちろん異なる。まず被用者保険と地域保険とで休業補償の有無が分かれるので、サラリーマンと自営業者では違いがある。また、大企業だと公的医療保険以上に手厚い給付を行ってくれることもあり、この場合は必要な貯蓄はさらに少なくて済む。
仮に高額療養費上限の医療費と一日数千円の支出で6カ月間闘病するとし、休業補償がないとすると、大体100万円程度が必要となる。1年を想定するなら倍の200万円だ。大体100万単位の貯金が目安となるだろう。
●「今までの医療保険は“使い勝手が悪い”ものも多い」説
医療保険に加入して保険料を支払っても、給付を受けるのは保険契約で決まった条件にあてはまるときだけだ。
例えば、今の医療保険は入院や手術に対する給付が主であり、入院や手術を伴わない通院での医療費がいくらかかっても保険金は支払われない(入院や手術後の通院ならば支払われるタイプもある)。また、1回の入院について支払い日数の限度がある(60日や120日などであることが多い)。
また保険によって疾患の定義が微妙に異なることもある。同じ心疾患でも保険商品によって給付対象となったりならなかったりする。また、医療保険を単体で購入せず、生命保険の特約で医療保障をつけている場合などは、保険料の払込期間しか保障されないことが多い。病気が気になる年令になったとき、使えなくなることもあるのだ。
月に数千円の保険料でも、ずっと払っているうちに保険料の総支払額は100万円以上の金額となることもある。この金額を給付が契約で限定される保険商品の購入にあてるのではなく、自由に使える貯蓄に回したほうが合理的だ。病気になれば医療費として使えばいいし、病気にならなければ他のことに好きに使うこともできる。
したがって、「わざわざ不自由な医療保険」に加入する必要はない」というのが不要論を唱える人たちの論拠だ。
医療保険必要論の根拠とは
反対に医療保険が必要な根拠とはどのようなものだろうか。ここまで述べてきた「不要論」を裏側から見たものとなる。
●「社会保険は万能ではない」説
医療費を一定額に抑えられる高額療養費制度には、実は落とし穴がある。暦の上での月をまたいで合算することができないのだ。同じ月なら上限額までの負担で済むものも、月をまたいでしまうとふた月分それぞれについて上限額を超えなければ払い戻されないのだ。
また高所得者は上限額も高い。標準報酬月額53万〜79万円(年収約770〜約1,160万円)では上限額は「16万7,400円+(医療費−55万8,000円)×1%」となる。これより高所得だと「 25万2,600円+(医療費−84万2,000円)×1%」だ。長期にわたると、多数回該当でそれぞれ「9万3,000円」「14万100円」となるが、それでも経済的には大きな出費となる。
また、高齢化で社会保障制度は厳しい状況にある。近年でも所得の多い高齢者の自己負担割合が、現役世代並みの3割となる制度改正があった。高額療養費は深刻な病人向けの制度なので改悪の恐れは少ないが、必ずしも安泰とも言えない。
そして、そもそも社会保険は被用者には手厚いが、自営業やフリーランスには休業補償などがない。社会保障の助けがもともと手薄な人もいる。こういう人は医療保険で備えることも考えるべきだろう。
●「貯蓄ができるまでの時間が必要」説
社会人になって間がない若年層は、貯蓄もそれほど多くない。それなのに大病を患ってしまうと経済的に厳しくなる。自力で対処できない経済的負担に備えるために、貯蓄の妨げにならない程度に掛金の安い医療保険に一つは加入しておいたほうが良いだろう。
●「保険商品も進化・多様化している」説
ひと昔前、医療保険のテレビコマーシャルで「入院1日目から保障します」といううたい文句が盛んに使われていた。それ以前は4~5日入院してようやく入院給付が下りるという商品が主流だったのだ。もっと昔は単体の医療保険がなく、生命保険の医療特約しかなかった時代もある。
保険商品も社会のニーズに合わせて変化する。医療保険は今後成長が見込まれる分野で、各保険会社も競って目新しい商品を出そうとしている。
医療の進歩や政府の医療費抑制策によって入院日数は短くなっており、近年の医療保険には「日帰り入院」を含む短期入院に焦点を合わせているものも多い。一方で脳血管疾患のように治療が長期にわたる疾病を対象に、特約などで保障を手厚くしている保険商品もある。
掛け捨てが嫌な人には還付給付金がある保険商品もあるし、支払い分だけをカバーし保険料を格安に抑える実費型商品もある。めったに起こらないが起これば高額となる「先進医療」や「臓器移植」にのみ備える保険商品もあり、確率の問題でワンコインという非常に手軽な保険料となっている。
購入の仕方も、ネット上で自分に必要な保障を自由に組み合わせて購入できる保険会社もある。保障も保険料もシンプルで分かりやすい。
今までの医療保険は、疾患や医療の変化に対応していなかったものも多かった。しかし、人生100年時代、何よりも「病気とケガ」が不安な世代に安心を提供するため、保険会社が様々に医療保険を進化させている。
多様な選択肢の中に、貯蓄以上に魅力的な保険商品が見つかれば、加入を検討してもよいだろう。
変化する保険商品の動向に目配りを
医療費の負担は長生きする上で大きな不安だ。ただやみくもに医療保険に加入するのではなく、まずは社会保険で賄える分を熟知したい。
貯蓄がない間は保険料が安いものを購入しておこう。過去の医療保険は貯蓄より使い勝手が悪いものもあったかもしれないが、保険商品は進歩している。自分のニーズに合ったものが登場しているかもしれないし、今後も誕生するだろう。最新の保険商品の動向に目配りしつつ、病気やケガに対するリスクマネジメントを行おう。(ZUU online編集部)
Source: 株式投資