ESG投資に日本企業はどのように対峙すべきか?

ESG投資に日本企業はどのように対峙すべきか?

ESG投資に対する関心が飛躍的に高まっている。この背景には、社会的な問題に対して、企業や投資家などの経済セクターがより積極的に関与することなくして、地球に迫りくる資源面での限界を克服できないのではないかという問題意識がある。国連の調査によれば、2050年には世界の人口は90億人(現在、70億人)、都市化率は70%(同50%)にのぼり、これに伴い、エネルギー需要は現在の1.6倍、食料需要は1.7倍、水需要は1.6倍に増大するものとみられている。もはや地球上で活用しうる資源は限界に近づきつつあるのである。こうした迫りくる危機を解消するためには、経済のメインプレイヤーである企業やそれを支える投資家がより積極的な取り組みを実施することが求められつつあるのである。国連が2015年に公表したSDGsではこうした問題意識のもと17の目標、169のターゲットを掲げ、それに基づく行動を企業に求めている他、国連PRIや米ERISA法なども、投資家にESGに関わる取り組みを積極的に評価することを求めているのである。

ESG投資
(画像=PIXTA)

とはいえやみくもにESGに関わる取り組みを実践すればよいというわけではない。企業はESGに関わる取り組み以前に、投資家をはじめとする資金提供者から受託した資金を最大化することを求められるためである。オックスフォード大学のクラーク教授は2015年にESGに関わる200を超えたアカデミック・ペーパーをまとめている。これによれば、資本コストに関する研究の約90%は、優れたESG活動と資本コストは負の相関関係に、将来の事業業績に関する研究の約88%は、優れたESGと将来の事業業績が正の相関関係に、さらに株価に関する研究の約80%は、優れたESGと株価水準が正の相関関係にあることを示している。一方で、これらの研究成果はESGと企業価値との相関関係を示しているだけであり、すなわち優れた業績を上げている企業は、ESG活動にも資源を割く余裕があり、結果としてESG活動と企業価値の間に相関があるように見えているという可能性もある。こうしたことから、ESG活動と企業価値との関係性を検討するためには、ESGがどのような経路で企業価値に結びつくかを検討する必要がある。ケンブリッジ大学のディムソン教授は、 (1)顧客ロイヤリティーの向上や製品・サービス差別性の増大、 (2)従業員満足度の向上、(3)特定投資家の獲得、(4)企業の規律付けの改善の4つの経路を通じて、持続的な企業価値創造に結びつくと説明している(図表1)。

ESG投資
(画像=ニッセイ基礎研究所)

ここでは特に投資家のタイプとESGに関わる取り組みについて検討する。投資家がESGに関わる取り組みを評価する場合、ESGに関わる取り組みを積極的に価値評価に取り込むポジティブ・スクリーニングとESGに関わる取り組みに問題のある銘柄を投資対象から外すネガティブ・スクリーニングの2つのタイプがある。一方で、投資手法は多数の銘柄から構成されたポートフォリオを組み、安定した投資リターンを獲得することに重きをおくパッシブ投資と、より長期的に価値が増大する銘柄を厳選し、集中して投資をするアクティブ投資に区分できる。アクティブ投資は、対話・エンゲージメントと親和性が高く、パッシブ投資はESG格付け機関との親和性が高い(図表2)。

ESG投資
(画像=ニッセイ基礎研究所)

パッシブ投資においては格付け機関による評価をできる限り低くしないことが求められる。ESG格付け機関からの評価が低い日本企業の場合、ESGに関わる取り組みを開示していないケースが多く、またグローバルスタンダードとのギャップが大きいことが、その評価を低めているケースが多い。開示への取り組み、グローバルスタンダードとのギャップ解消がESG格付けでネガティブな評価を受けないうえで求められる。一方、アクティブ投資で積極的に評価を得るためには、長期的な社会や環境のメガトレンドを前提に、自社において重大なリスクとなる事象や事業機会になる事象を棚卸し、自社の差別性を促し、競争力を高める取り組みをより強化し、投資家に理解してもらう必要がある。どちらの投資を取り込むことをより重視するかによって、ESGに関わる取り組みのベクトルが異なる可能性がある点に留意が必要である。いずれにせよ企業のESGに関わる取り組みのフェーズや長期的なビジョン、訴求すべき投資家などに応じてESGに関わる取り組みをより進化させる必要がある。投資コミュニティーからの評価やそれとの対話・エンゲージメントを通じて、ESGに関わる取り組みを持続的な企業価値創造に結びつける企業が増大していくことを期待したい。

【参考文献】 Clark, Gordon L., Andreas Feiner, and Michael Viehs. “From the stockholder to the stakeholder: How sustainability can drive financial outperformance.” (2015).Working Paper. Oxford University. Dimson, Elroy, O?uzhan Karaka?, and Xi Li. “Active ownership.” The Review of Financial Studies 28, no. 12 (2015): 3225-3268.

加賀谷哲之 一橋大学大学院商学研究科
ニッセイ基礎研究所

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Source: 株式投資
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