株式投資が「連想ゲーム」と呼ばれる理由 「インフルエンザで儲かる会社」分かりますか?
株式投資が「連想ゲーム」と呼ばれる理由 「インフルエンザで儲かる会社」分かりますか?
「株式投資は連想ゲームだ」。筆者が社会人としての第一歩を踏み出した頃、先輩に教わった言葉だ。まだ学生気分が抜けず、株のことも何一つ分からなかった筆者であるが、その後経験を積む中で先輩の言葉を何度も噛み締め、実感することになる。多くの証券マンが似たような経験をしていると思うが、筆者にとっては文字通りの「金言」なのだ。
『連想ゲーム』とは1969年4月から1991年3月までNHK総合テレビで放送されたクイズ番組である。司会者がオープニングで「連想は十人十色と申します」と毎回述べるのであるが、これは株式投資にも通じる言葉だ。株式投資の連想も十人十色、人それぞれなのであるが、筆者の経験では多くの人が身近で「分かりやすい」連想を支持するケースが珍しくない。コンビニのヒット商品、SNSの話題、大人気のテレビドラマなど……常日頃から身の回りの出来事に気を配り「どんな企業が儲かるのか?」連想するスキルを磨くことが大切だ。
たとえば、読者のみなさんは「インフルエンザ」といえば、どんな企業を思い浮かべるであろうか? 今シーズンはインフルエンザが猛威を振るい、筆者の家族はA型とB型の両方にかかってしまった。39度くらいまで熱が上がって苦しんでいたが、病院で治療薬タミフルを処方してもらうとすぐに平熱に戻り、5日間安静にしただけで事なきを得た。
そう、インフルエンザといえばタミフル。タミフルと言えば中外製薬 である。ところが、長年多くの投資家に支持されてきたその「連想」も大きな変化を迎える可能性が浮上している。中外製薬、いや医薬品セクターに何が起きているのだろうか。
インフルエンザが過去最高、世界的に猛威振るう
厚生労働省はインフルエンザの状況を毎週発表している。今年のピークは1月28日の週でインフルエンザ患者数は推計約283万人と前週の171万人から急増し、週間で過去最高を記録した。その後、2月4日の週が約274万人、11日には約282万人となったが、18日には約167万人、25日には約133万人まで減少した。インフルエンザの大流行はようやく収まりつつあるようだ。
ちなみに、今シーズンのインフルエンザ患者の総計は推計で1932万人。前シーズンの約1585万人を2割以上も上回り、発表を開始した1999年以来過去最高となった。A型とB型が両方流行ったことも患者数の増加をもたらしたようだ。米国やオーストラリア、フランスなどでも過去5〜9年で最多の患者数になっており、世界的に流行の傾向が認められる。
インフルエンザ治療薬「タミフル」の売上好調
インフルエンザの治療薬の定番といえばタミフルだ。感染後48時間以内に飲めば効果が高いと言われている。
タミフルは、1996年に米国でバイオベンチャー大手のギリアド・サイエンシズ社が開発した。スイスの世界的な大手製薬会社ロシュにライセンス・アウトし、同社が製造販売している。そして、日本ではロシュ傘下の中外製薬が「独占販売」している。
2017年における中外製薬の「薬品(製商品)売上高」は4993億円で前年比5%増。そのうちタミフルの売上は169億円で前年(135億円)比25%増と過去最高だった。薬品売上高全体に占めるタミフルの割合は3.4%に過ぎないが、それよりも注目されるのは伸び率の高さであろう。もともと期初のタミフルの売上予想は82億円であり、計画比で2倍以上も売れた計算となる。通常の販売に加えて、国の備蓄分の売上も増加しているほか、シーズン入りした2017年10〜12月期の売上は68億円と前年同期比36%増を記録している。
「インフルエンザといえば中外製薬」
株式市場ではインフルエンザが流行するたびに、中外製薬が物色される傾向がある。多くの投資家にとって「インフルエンザといえば中外製薬」との連想が働きやすいようだ。
実際、中外製薬の株価はインフルエンザが猛威を振るい始めた今年1月26日に6080円と過去最高値を更新している。2017年の株価上昇率を見ても中外製薬は72.0%高と東証医薬品セクターの11.3%高を大きくアウトパフォームし、同セクターの中でトップクラスのパフォーマンスを示している。 これもインフルエンザによる「連想効果」によるところが大きいと考えられる。
もちろん、先に述べたように中外製薬の「業績全体」に占めるタミフルの比率はそれほど大きいわけではない。しかし、タミフルはもちろん、同社の主力の抗がん剤アレセンサのロシュ向け輸出も順調に伸びており、業績全体を後押ししている。
具体的に中外製薬の「業績全体」を見てみよう。2017年12月期の決算によると、売上は8.1%増の5341億円、営業利益は28.7%増の989億円でいずれも過去最高を更新している。2018年の会社予想についても売上は1.4%増の5414億円、営業利益9.2%増の1080億円が見込まれているのだ。さらにアナリストのコンセンサス予想では、足下の好調もあって売上5600億円、営業利益1177億円程度となっている。
新薬「ゾフルーザ」の登場が意味するものは?
医薬品の技術は日々進化している。最近では塩野義製薬 のインフルエンザ治療薬の新薬「ゾフルーザ」が厚生労働省に承認された。注目されるのは、タミフルが5日間服用が必要なのに対し、ゾフルーザは1回の服用で治療でき患者の負担を軽減できることだ。
連想は十人十色と申します……冒頭で紹介した『連想ゲーム』の司会者の言葉があらためて想い起こされる。株式投資の連想も十人十色、果たして「インフルエンザといえば中外製薬」との連想は今後大きく変わることになるのだろうか。日々進化する医薬品セクターの動向から目が離せない。
平田和生(ひらたかずお)慶応大学卒業後、証券会社の国際部で日本株の小型株アナリスト、デリバティブトレーダーとして活躍。ロンドン駐在後、外資系証券に転籍。日本株トップセールストレーダーとして、鋭い市場分析、銘柄推奨などの運用アドバイスで国内外機関投資家、ヘッジファンドから高評価を得た。現在は、主に個人向けに資産運用をアドバイスしている。
Source: 株式投資