中小企業が事業承継の選択肢として考えるM&A。種類はいくつある?
中小企業が事業承継の選択肢として考えるM&A。種類はいくつある?
中小企業の経営者にとって、後継者の不在は廃業の可能性を高める深刻な問題です。後継者問題の対策として、近年M&Aによる事業承継という選択肢が注目されています。長年にわたって守ってきたサービス、技術やノウハウ、ビジネスモデル、従業員や取引先、顧客にとって、会社が廃業するか存続するかは重要なポイントのひとつです。そこで、事業承継としてのM&Aについて考えてみましょう。
事業承継の現状と廃業理由
まず、事業承継の現状について確認しておきましょう。2016年2月に日本政策金融公庫総合研究所が発表した「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」によれば、60歳以上の中小企業経営者の50%が廃業を予定しています。廃業理由は下記のようなものが挙げられます。
1位「当初から自分の代でやめようと思っていた」38.2%
2位「事業に将来性がない」27.9%
3位「子どもに継ぐ意志がない」12.8%
4位「子どもがいない」9.2%
5位「適当な後継者がみつからない」6.6%
3位〜5位の3つをまとめて「後継者の確保が難しい」とみなせば28.6%にもなります。実は中小企業経営者の廃業の検討理由は、自分の代で廃業しようと思っていた、事業の将来性がない、後継者が難しい、の3点になるということがわかります。
しかも廃業を予定している企業の3割が同業他社よりも業績が良いのが特徴です。今後10年間の将来性についても「成長が期待できる」が5.5%、「成長は期待できないが現状維持は可能」が35.4%と、4割が事業は継続できるにもかかわらず廃業を予定しているというのです。健全な経営を続け、企業価値もあると思われる会社が廃業の道を選択することは、本来は維持できる技術や雇用が失われてしまうことを意味しています。
事業承継の手段としてのM&A
そこで注目されているのがM&Aによる事業承継です。M&Aといえば大企業の買収劇をイメージする人もいるかもしれません。しかし、近年は中小企業の事業承継の手法として注目されているのをご存じでしょうか。
注目されている理由として、後継者がいなくても事業を存続させられる点があります。会社を他に譲ることで、後継者問題が解消するだけではなく、従業員の雇用が守られ、成長機会が提供できること、勢いのある会社と一緒になれば更なる成長が望めること、オーナー経営者の場合は個人保証や担保差し入れなどのストレスから解消されることなどもあげられるでしょう。
M&Aにはさまざまな種類がありますが、「会社をすべて人に譲るスキーム」と「一部を譲るスキーム」に分かれます。また、会社を人に譲るスキームでは、買収と合併に更に細分化されるのが特徴です。
M&Aで会社をすべて他に譲るスキームは4種類
会社を人に譲るスキームとして買収があげられます。買収方法では株式譲渡、株式交換、株式移転、新株引受(株主割当増資や第三者割当増資)があります。
● 株式譲渡
株式譲渡は会社を売却する企業のオーナーなどが持っている株式を買い手の企業や個人に譲渡し、買い手は売り手に対価を支払います。買い手企業は売却された企業の経営権を取得し子会社とします。会社の名前や契約関係、そして債権債務などもすべて引継がれますが、財務内容がよい、今後も成長が見込めると思うのであれば、株式譲渡を検討してもよいでしょう。オーナーが株式の大半を持つ場合などにはよく使われる手法です。
● 株式交換
株式交換は、親会社となる会社が子会社となる会社の株主から株式を引き取り、その対価として自社株を交付する方法です。株式交換は株主総会に出席した株主の議決権の2/3以上の賛成があれば、会社間の合意で実施することができます。また、株式交換では子会社の株主構成は変更となるものの、会社の組織は変更しなくても済みますので、ある程度の独立性を確保することもできます。
● 株式移転
株式移転は新たに会社を設立して、1つまたは複数の株式会社が全株式を新設会社に発行して親子関係を構築する方法です。この方法では、純粋持株会社であるホールディングカンパニーを中心にグループカンパニーを編成しやすくなります。株主構成を変える手続きであるだけではなく子会社の財産を減らさずに済みますし、債権者が不利益になることはないと言われています。
● 新株引受(株主割当増資や第三者割当増資)
新株引受は売却側が新株を発行し、買い手である企業や個人に引き受けをしてもらう方法です。資金調達方法としても検討される場合があります。株主割当増資や第三者割当増資などがあてはまります。買い手の企業や個人は株式譲渡と同じように株式を取得することになりますが、対価は売却側の企業に入金されます。そのため、資金繰りが厳しいものの、経営を存続させたい企業などで新株引受が検討されます。
M&Aで会社を合併するスキームは2種類
● 吸収合併
吸収合併とは複数の会社を1つの会社に統合する方法です。「吸収合併」は存続させる1社だけに法人格を残し、他の会社は吸収されて消滅します。ただ、吸収された会社の資産や負債などの「権利義務」、従業員などは吸収した1社に引き継がれます。
● 新設合併
新設合併は、新設した会社に全ての企業を統合させて、統合された企業は消滅させます。消滅した企業の権利義務は全て、新設された会社に承継されます。
M&Aで事業の一部を譲るスキームは2種類
事業の一部を他に譲るスキームでは事業譲渡や会社分割があります。
● 事業譲渡
事業譲渡は譲渡する会社が一部の事業部門だけを売却する方法です。買い手の会社にとっては必要な事業だけを譲り受けることができますが、債務や債権、雇用などの権利義務関係を事業単位で引き継ぐために手続きが煩雑になります。
● 会社分割
会社分割は事業譲渡に似た方法で、会社の事業の全部か一部を承継する方法です。このうち、「新設分割」は新会社が事業を承継し、「吸収分割」では既存の会社が承継します。事業譲渡との違いは、引き受けた株式の対価が現金だけではないことです。基本的には株式を対価とすること、会社分割をすると労働契約承継法で従業員の雇用が確保されることです。
M&Aで後継者問題を解決する
このように、M&Aにはさまざまな種類があります。M&Aは、中小企業の承継問題を解決する有効な選択肢のひとつです。しかもM&Aにはいくつものバリュエーションがあり、自社に適した方法を選ぶことができます。また、もちろんメリットもあればデメリットもあります。事業承継の手段としてM&Aを検討しようと思うなら、金融機関、M&A仲介会社などを活用し、相談する、セミナーで情報収集をするなど、行動してみてはいかがでしょうか。(提供:企業オーナーonline)
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Source: 株式投資