なぜ、年金制度は複雑で分かりにくいのか? このままでは「知らずに損をする」人が続出する!?

なぜ、年金制度は複雑で分かりにくいのか? このままでは「知らずに損をする」人が続出する!?

先日、拙著『金持ち定年、貧乏定年』(実務教育出版)の読者と交流する機会がありました。『金持ち定年、貧乏定年』はFPで税理士・社会保険労務士の中島典子さんとの共著なのですが、実はこの本の内容について良く質問を受けるようになりました。一般の読者はもちろん、同級生、友人・知人、さらには同業のFPからも「同じ質問」を受けることが珍しくありません。今回の読者との交流でも同様の質問を多く受けました。

その質問とは「特別支給の老齢厚生年金」についてです。驚くべきことに多くの人が「特別支給の老齢厚生年金」について大変な誤解、勘違いをされているようなのです。

私たちの周りには、知らないと損をする情報がたくさんあります。今回はそんな情報の一つ「特別支給の老齢厚生年金」を中心に解説しましょう。

「特別支給の老齢厚生年金」って何だ?

特別支給の老齢厚生年金,繰り下げ
(画像=PIXTA)

そもそも「特別支給の老齢厚生年金」とは何でしょうか? 1985年(昭和60年)、わが国で年金制度の大きな改革がありました。それまで国民年金・厚生年金・共済年金などバラバラだった年金が一つにまとまり、新たな年金制度(基礎年金制度)が生まれたのです。

国民年金は、年金の加入期間に応じて年金額が決まる定額制でした。厚生年金も共済年金も1階部分に定額制を採用し、すべての年金が1階部分が定額制である「基礎年金」で統一されました。

このとき、厚生年金保険の支給年齢が60歳から65歳に引き上げられました。そして、支給が開始される年齢を段階的に、スムーズに移行するために設けられた制度が「特別支給の老齢厚生年金」なのです。

ちなみに、「特別支給の老齢厚生年金」を受けられる人は下記の通りとなります。

・男性は昭和36年4月1日以前の生まれの人・女性は昭和41年4月1日以前の生まれの人・老齢基礎年金の受給資格(10年以上)を有すること・厚生年金保険に1年以上加入していた人・60歳以上であること

上記に該当する人は、「特別支給の老齢厚生年金」を受け取ることができます。たとえば、現在は専業主婦でも上記の条件を満たしていれば受け取ることができるのです(以前会社員で働いていて厚生年金に加入していたケース等)。

年金制度はこれまで何度も改訂を行っています。その度にどんどん複雑に、どんどん難解になっています。そして、それが多くの国民に大変な誤解、勘違いを与える要因となっています。その複雑で誤解されやすい代表の一つが「特別支給の老齢厚生年金」なのです。

「ユーザー目線」の欠如した制度

複雑にしている原因の一つに難解な「用語」があると私は考えています。私はFP業務のほか出版プロデュースにも長年携わっています。出版とは「言葉を扱う仕事」とも言えますが、そんな私でさえ年金制度は複雑で難解、まるで暗号を解読するようなものでした。

たとえば「特別支給の老齢厚生年金」は「比例報酬部分」と呼んでいます。「比例報酬部分」とは、厚生年金保険の加入期間中の報酬及び加入期間に基づいて計算されます。一方、「定額部分」は厚生年金保険の加入期間によって計算されます。もともと厚生年金は一つの制度だったのですが、1985年の改革で「比例報酬部分」と「定額部分」の二つに分けた結果、複雑で分かりにくくなってしまったのです。

つまり、整理すると「比例報酬部分」は厚生年金額と同じ金額です。「定額部分」は基礎年金と同じ金額なのです。まったく、ややこしいですね。これでは「ユーザー目線」の欠如した制度と言わざるを得ません。実際、きちんと理解できない人のほうが圧倒的に多いのではないでしょうか。民間企業では考えられないことだと思います。

「特別支給の老齢厚生年金」は繰下ができない

ちなみに、厚生年金や基礎年金は、繰下受給や繰上受給が可能です。本連載でも取り上げましたが、年金の繰下受給は「お得」という話をご存知の読者も多いことと思います。

では「特別支給の老齢厚生年金」はどうでしょうか。繰下受給をすると得になるのでしょうか? 答えは「ノー」です。

「特別支給の老齢厚生年金」は繰下受給はもちろん、繰上受給もできません。

「ねんきん定期便」の見方を間違えて損をする人が続出?

ところで、冒頭の『金持ち定年、貧乏定年』の読者との交流で気づいたのは「ねんきん定期便」の見方を間違っている人が意外と多いことです。

「ねんきん定期便」には、たとえば65歳前は比例報酬部分190万円、65歳は比例報酬部分190万円、定額部分70万円、合計260万円などと表記されています。「ということは、65歳まで待てば増えるのだな!」と解釈して、受け取らない人も少なくないようです。

しかし、この解釈は大変な誤解です。なぜなら「特別支給の老齢厚生年金」と65歳以降の老齢厚生年金は別物だからです。

そもそも年金の時効は5年なのをご存知でしょうか? さかのぼって請求できるのも5年分です。それを過ぎると、権利は消滅してしまいます。つまり、「特別支給の老齢厚生年金」も受け取らないと消えてしまうのです。そのことを知らずに損をしている国民が相次いでいるとすれば……本当に恐ろしい話ですね。せめて時効をなくすことはできないのでしょうか。

「特別支給の老齢厚生年金」は必ず請求をしてください。あなたの大切なお金は、あなた自身で守るしかないのです。

継続雇用の人は、ここに注意を!

知らず知らずに損をしているといえば、「在職老齢年金」制度もそうです。「在職老齢年金」制度は60歳で定年を迎え、その後も継続雇用され、厚生年金保険に加入している人が「給与などと年金月額の合計が28万円を超えている」場合、年金が減額されてしまうものです。

「働いていると、年金が減らされるの?」「それなら後でまとめてもらえばいい」「そうすれば、満額もらえる!」

上記のように解釈する人もいるようですが、残念ながらこれも大変な間違いです。しっかりと減額されたうえでの支給となります。

ただ、たとえ給料が高くて「年金が全額停止」になったとしても、年金請求書は提出しておきましょう。もし給料が下がった場合は、受け取れるようになりますから。ちなみに、厚生年金保険に加入していない場合は、年金の減額はありません。

年金は「自分で手続きをしないと受け取ることができない」制度です。繰り返しますが、手続きを忘れないように、必ず年金請求書をだしてください。

今回は「特別支給の老齢厚生年金」を中心に解説しましたが、世の中には私たちにとって知らないと損をする情報がたくさんあります。これからも、そんな情報を読者のみなさんにお届けしたいと思います。

長尾義弘 (ながお・よしひろ)NEO企画代表。ファイナンシャル・プランナー、AFP。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。新聞・雑誌・Webなどで「お金」をテーマに幅広く執筆。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『お金に困らなくなる黄金の法則』『保険はこの5つから選びなさい』(河出書房新社)、『保険ぎらいは本当は正しい』(SBクリエイティブ)。監修には別冊宝島の年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。 http://neo.my.coocan.jp/nagao/


Source: 株式投資
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