ロシア疑惑で追い詰められるトランプ政権の「終わりの始まり?」 混迷の度を増す世界経済
ロシア疑惑で追い詰められるトランプ政権の「終わりの始まり?」 混迷の度を増す世界経済
ロシア疑惑の捜査がトランプ一族に迫っており、危険を感じたトランプ大統領がモラー特別検察官を解任するのではないかとの憶測を呼んでいる。解任観測と並行して外交政策も激化する中、ウォール街では「米国第一主義が世界経済の最大のリスクとなりつつある」との声も聞かれる。
「一線を越えた」捜査で強まるモラー氏解任観測
3月15日、ロシア疑惑を捜査しているモラー氏がトランプ一族の経営する「トランプ・オーガナイゼーション」へ捜査令状を出したことが明るみになった。トランプ氏のビジネスに対する捜査が表沙汰になるのは今回が初めてのこと。昨年7月、トランプ大統領はトランプ一族のビジネスを捜査すれば「超えてはいけない一線を越えることになる」と警告していたが、ついにその一線を越えたことになる。
トランプ大統領は17日、「捜査は元々開始されるべきではなかった」とツイートし、モラー氏を名指しで批判している。ちなみに、トランプ大統領はそれまで、弁護士の助言によりモラー氏を直接批判することを避けていたのであるが、今回「一線を越えた」ことで堪忍袋の緒が切れてしまったようだ。
翌18日には「モラー氏のチームには13人の強硬な民主党支持者がいるのに、共和党支持者はゼロだ」とツイートし、捜査が「偏っている」とも批判している。さらに19日には「利益相反を抱えた、魔女狩りだ」とも発言。21日にもモラー氏への「口撃」を繰り返すなど対立姿勢を強めている。
「口撃」だけではなく、19日にはブッシュ(父)政権時に独立検察官を務めた元連邦検事ジョゼフ・ディジェノバ氏を法務チームに迎え、臨戦態勢を整えているのが現状だ。
ちなみに、大統領選挙戦で一時選対本部長を務めたマナフォート被告やその右腕のゲーツ被告はオフショア口座を利用した資金洗浄や脱税、共謀罪などロシア疑惑とは直接関係のない「12件の罪状」でモラー氏から起訴されている。このことから、トランプ大統領自身を含むトランプ一族もロシア疑惑とは直接的には関係のない「罪状」で起訴されることも考えられよう。
グラム上院議員「トランプ政権の終わりの始まり」
3月17日にはマケイブ前FBI副長官がモラー氏の聴取に応じ、トランプ氏とのやりとりを詳細に記したメモを提出した。このメモはトランプ大統領の「司法妨害」の裏付けとなる可能性が指摘されている。
そもそもマケイブ氏は今月18日に退任する予定であったが、同16日に突然の免職が発表されている。免職理由はマケイブ氏と民主党との関係から「捜査の中立性に疑問があった」からだとしており、同様のロジックがモラー氏に適用される可能性もないとはいえない。
ちなみに、モラー氏を解任できるのは大統領ではなく司法長官なのだが、セッションズ司法長官がロシア疑惑の捜査から外れている関係で、その権限はローゼンスタイン司法副長官が担うことになる。ローゼンスタイン副長官がモラー氏の解任を拒んだ場合には、同氏を更迭して後任にモラー氏の解任を命じるか、セッションズ長官を更迭して、新司法長官に解任権を戻すことも考えられる。そのほか、捜査そのものを「不適切」として切り上げを命じることも可能だ。
モラー氏解任の可能性について、政界の反応も様々だ。共和党のリンゼー・グラム上院議員はトランプ大統領のモラー氏批判ツイートについて「(モラー氏解任は)トランプ政権の終わりの始まり」と警告している。モラー氏が解任されると大統領本人の政治生命を危険にさらす公算が大きく、そう考えるとローゼンスタイン司法副長官に圧力をかけて捜査を打ち切りにすることが現実的なのかもしれない。
一方、ライアン下院議長は「特別検察官は介入を受けることなく、捜査を完了させる必要がある」と述べているほか、マコネル上院院内総務もライアン氏の発言に同調しており、捜査打ち切りが一筋縄ではいかないことを示唆している。
このような憶測を呼ぶ中で、トランプ大統領がどのような行動に出るのか、目が離せない情勢だ。
トランプ大統領の顔色をうかがうG20
トランプ大統領とモラー氏の対立が激しさを増す中で、米保護貿易への懸念も高まっている。CNBCがFOMC(米連邦公開市場委員会)を前に実施したフェドサーベイによると、米景気の最大のリスク要因として「貿易戦争」が挙げられている。
こうした中、G20は「保護貿易主義と戦う」との文言を削除して閉幕した。筆者が思うに、この文言削除はトランプ大統領に対する「忖度」であり、主要国が逃げ腰であると批判されても仕方がない。
では、主要国が逃げ腰となっているのはなぜか? 承知の通り、トランプ大統領は鉄鋼とアルミニウムの輸入関税に署名したが、すでにカナダとメキシコは除外することが明らかにされているほか、オーストラリアを除外する可能性も示唆している。
この3カ国に共通しているのは、昨年12月に実施された米国のエルサレム首都認定の撤回を求める国連決議で「棄権」していることだ。トランプ大統領は「米国は投票結果を忘れない」と恫喝するような発言を行ったばかりか、「米国は米国を軽視した国々に対して見方を変える」とも述べている。
カナダ、メキシコ、オーストラリアに対する厚遇は、トランプ大統領が国連決議での「投票結果を忘れなかった」帰結であると考えられる。これに対し、同決議に賛成した日本を含む128カ国はタフな交渉が待ち受けている可能性がある。
「米国第一主義」を誰も止められない
3月18日、米上院外交委員会のボブ・コーカー委員長(共和党)はトランプ大統領が5月にもイランとの核合意を破棄するとの見方を示している。
トランプ大統領はかねてからイランとの核合意の破棄を主張していたが、すでに核合意を支持するティラーソン氏を国務長官から解任し、対イラン強硬派で知られるポンペオ氏を起用して準備は万端となっている。
ブッシュ大統領(息子)は2002年1月にイラン、イラク、北朝鮮を「悪の枢軸」と非難したが、トランプ大統領もイラン、北朝鮮、中国を同様にみなして対決姿勢を一層強める可能性も否めない。
ウォール街では「世界の国々は関税を回避するために、トランプ大統領の顔色をうかがっている」「もはや、米国第一主義を誰も止めることができなくなっている」との声も聞かれる。モラー氏解任や米中貿易戦争、中東での軍事行動などの波乱要因がくすぶり続ける中、世界経済のさらなる混乱が懸念されている。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)
Source: 株式投資