生命保険「解約」の手続きとは? いつまでに何をどうすべき? ポイントと注意点は?
生命保険「解約」の手続きとは? いつまでに何をどうすべき? ポイントと注意点は?
生命保険は、契約者が望めばいつでも解約できる。ただし解約の手続きをするときは、いくつかのポイントに注意しなければならない。また、金銭的な理由で保険の解約を検討している場合、解約以外の方法によって契約を継続できることもある。ここでは、保険の解約に関して知っておくべきポイントについて解説する。
保険を解約することで生じる効果とは
保険は、契約者が意思表示をすることでいつでも解約できる。その手続きはとてもシンプルで、以下のような流れで進められる。
(1)営業担当者や代理店、コールセンターに解約の意思表示をする(2)解約請求書類に必要事項を記入し、生命保険会社に送付する(3)生命保険会社が解約請求書類をもとに解約の処理をする
生命保険の解約にあたっては、解約請求書の他に本人確認書類や保険証券が必要な場合がある。また解約日は、「生命保険会社に解約請求書類が到達した日」とされるのが一般的だ。これは、民法第97条が隔地者に対する意思表示について「意思表示が相手方に到達した日に効力を生じる」と規定していることに基づく。
解約の手続きが完了すると、それ以降は契約の効力が消滅し、保障を受けられなくなる。また解約返戻金がある場合は、これを受け取ることができる。
保険の解約を請求できるのは原則、契約者本人のみ
保険の解約は、原則として契約者本人のみが請求することができる。本人による手続きが難しい場合は代理人を立てることも可能だが、その場合は以下の条件を満たさなければならない。
・契約者の正当な代理人であること・委任状があること・支払口座が契約者名義であること(解約返戻金がある場合)
●被保険者からも解約請求可能なケースがある
契約者A、被保険者Bとする死亡保険契約(Bが死亡した際にAが保険金を受け取る)を締結している場合、これを解約できるのは原則としてAに限られる。しかし、離婚などにより両者の関係が大きく変化したにもかかわらず被保険者Bの意思に反して契約を継続するとなると、モラルリスクが生じる可能性も否定できない。
そこで保険法は、以下の場合に限り被保険者からの解約請求を認めている。
・契約者または保険金受取人が、保険給付を目的として被保険者を故意に死亡させ、または死亡させようとした・保険金受取人が、保険金の請求に関して詐欺を行った、または行おうとした・契約者または保険金受取人に対する被保険者の信頼を損ない、死亡保険契約の存続が困難になるような重大な事由がある・契約者と被保険者の親族関係終了など、被保険者が保険の加入について同意したときの基礎事情に著しい変更があった
被保険者からの解約請求は、契約者に対して行う。契約者はこれにより、保険契約を解約する義務を負う。それでも解約手続きをしてもらえない場合、被保険者は契約者に対し、保険解約の意思表示を求める訴えを提起することになる。被保険者による解約請求が認められているとはいえ意思表示をする相手はあくまでも契約者であり、保険会社に対して解約を直接請求することはできないのだ。
保険を解約するときに注意すべきポイント
保険を解約すると、契約内容によっては解約返戻金を受け取ることができる。ただしその額は、解約手続きをするタイミングや保険料支払いの有無などにより変化することがある。そのため保険を解約するときは、以下のようなポイントに注意したい。
●手続きのタイミングによって解約返戻金が変わる
保険を解約した場合に受け取れる解約返戻金は、保険料の払込期間・契約期間に比例して増える。そのため契約後短期間で保険を解約する場合、解約返戻金を受け取れないか、ごくわずかな金額しか受け取ることができない。
また近年は「低解約返戻金型生命保険」といったものも販売されているが、この種の商品は払込期間満了時までの解約返戻率が通常の商品よりも抑えられている。実際の返戻率は商品によって異なるが、払込満了までは70%前後と低いが、払込満了後は100%前後と高い率になる、という生命保険会社が多いようだ。
このように保険の解約返戻金は、解約手続きのタイミングによってその額が大きく変化する。契約期間・払込期間に応じた返戻率は契約書類や保険証券に記載されているので、入念にチェックしておくことをおすすめする。
●自動振替貸付にも注意
生命保険は、払込猶予期間内に保険料を納めなければ失効してしまう。ただし、養老保険や終身保険など解約返戻金がある保険契約については、猶予期間内に保険料を納付しなくても、生命保険会社が解約返戻金の範囲内で自動的に保険料を立替払いしてくれ、契約が継続する。これが、「自動振替貸付」と呼ばれる制度だ。
自動振替貸付は、生命保険会社による顧客の解約返戻金の「使用」ではなく、これを担保とした「貸付」である。そのため立替払いされた保険料には、所定の利息が発生する。また保険会社によっては、自動振替貸付は契約後最低6カ月分から、としているところもある。
自動振替貸付が行われた保険契約を解約する場合、解約返戻金からは未返済の元利金が差し引かれる。「解約手続きが面倒だから保険料を支払わず失効させてしまおう」といった考えでいると、自動振替貸付がされ解約返戻金がほとんどなくなってしまうこともあり得るのだ。
払込猶予期間を過ぎているにもかかわらず失効の連絡がない場合、自動振替貸付が行われている可能性が強い。一般に、自動振替貸付から3カ月以内の解約については、これが行われなかったものとして扱われる。そのため、保険を継続する意思がないのであれば、受け取る解約返戻金を減らさないためにも早めの解約手続きをおすすめする。
保険の解約を回避する方法
生活費や事業費などを捻出しなければならない、保険料の支払いが困難になった、というようにやむにやまれぬ事情がある場合、保険の解約はあくまでも最終手段だと心得ておいてほしい。というのも生命保険は、解約せずとも毎月の保険料を安くしたり、資金を調達したりすることができるのだ。
●保険金額を減らす
月々の保険料を安くするには、契約している保険の保障を削減する、という方法が効果的だ。例えば主契約が「死亡保障1000万円」となっている場合、保険金額を「死亡保障500万円」に減額することで保険料負担を抑えられる。削減した部分については「一部解約」があったものとして扱われ、以後の保障はなくなる。
主契約の削減に付随して特約の保障内容も削減されてしまうことはあるが、保険料を抑えつつ保障を継続する、という意味では有効な手段であろう。
●払い済み保険に変更する
経済的な事情により保険料を払うのが難しい場合、「払済み保険に変更する」という方法もある。
「払済み保険」とは、その時点までの解約返戻金を原資として、保険期間はそのままに保証額を少なくした保険のことである。保険金額を減額する、という点においては上述の手段と同じだが、このケースでは保険料を「払済み」扱いにするため、以後の保険料払込が不要になる。
どうにかして保険は続けたいが資金的な余裕がないという場合、この方法は非常に有効であろう。ただし、こちらについても、変更手続きをするとそれまで付加していた特約が消滅するため、その点については注意が必要である。
●契約者貸付による資金調達
解約する目的が、返戻金を生活費や事業資金などに充てる、といった資金調達である場合、「契約者貸付」という制度を検討してみてはいかがだろうか。
契約している保険に解約返戻金がある場合、生命保険会社の所定の範囲内で貸付を受けることができる。貸付を受けている間も保障は続くため、資金を調達する必要があるものの万一への備えはおいておきたい、という人にとっては検討する価値のある方法であろう。
ただし契約者貸付は自動振替貸付と同様、生命保険会社が解約返戻金を担保に行う「貸付」である。そのため貸付金に対しては、所定の利息が発生する。そして借りたお金を返済しないまま被保険者が死亡したり満期を迎えたりした場合、元利金が死亡保険金・満期保険金から差し引かれることになる。また、契約者貸付における利息は元金に繰り入れられ、元利金が解約返戻金相当額を超過した場合、保険は失効してしまう。
この制度を利用する場合は、余裕があるときに、その全部もしくは一部を返済することをおすすめする。
保険金受取人による介入権の行使
契約している保険に解約返戻金がある場合、契約者が税金を滞納したり住宅ローンの返済を滞らせたりすると、債権者(税金であれば国や市町村、住宅ローンであれば融資した金融機関)が解約返戻金請求権を差押え、契約を解除することができる。しかし、死亡保険には「遺族への生活保障」という側面があり、債権者により保険が解約されると、被保険者に万一のことがあった場合に保障を受けられなくなってしまう。もちろん再度保険に加入するという方法もあるが、健康状態などによりそれが難しいケースも少なくない。
そこで保険法は、一定の要件を満たす場合に限り、死亡保険金の受取人が債権者に対して解約返戻金相当額を弁済することでその解除権を消滅させる権利を認めている(介入権)。
債権者による解除権が行使された場合、「生命保険会社から債権者」に対して解約返戻金が支払われる。しかし、ここで「死亡保険金受取人から債権者」に対して解約返戻金相当額を支払うことで、介入権を行使できるのだ。
介入権を行使するには以下の要件を全て満たす必要がある。保険契約の解除を避けるため、死亡保険金受取人と相談し、介入権を行使してもらう方法もあるということを覚えておくとよいだろう。
・契約している保険が「死亡保険契約」であり、解約返戻金がある・保険契約を解除したのが、差押え債権者または破産管財人等である・保険金受取人が、契約者以外の者である(解除通知時)・保険金受取人が、契約者・被保険者の親族または被保険者である・介入権の行使に関して、契約者が同意している・生命保険会社が支払うべき金額を、解除権者に対して支払う・債権者に解約返戻金相当額を支払った旨、生命保険会社に通知する
生命保険の解約は慎重に
生命保険を解約すると、以後の保障が受けられなくなるというのはもちろん、手続きのタイミングやそれまでの保険料払込実績によっては、解約返戻金が少なくなってしまうことがある。また、経済的な事情により保険料の支払いが難しい場合や資金調達の必要がある場合は、解約以外の方法により無理なく保険を続けられることもある。保険の解約はあくまでも最後の手段だと捉え、慎重に手続きを進めることをおすすめする。
曽我部三代保険業界に強いファイナンシャルプランナー。富裕層の顧客を多く抱え、税金対策・相続対策を視野に入れたプランニングを行う。2013年より、金融関連記事のライターとしても活動中。
Source: 株式投資