借主の責任以外の理由で住めなくなった場合の「賃貸契約解除」3つのポイント

借主の責任以外の理由で住めなくなった場合の「賃貸契約解除」3つのポイント

2017年5月の国会で可決された民法改正。賃貸マンションなどの一部が災害などの不可抗力で“借主の責任以外”で使用できなくなった場合、賃貸契約を解除できるという規定があったが、今回の民法改正で見直されている。今後の賃貸借契約に、大きな影響を与えることも考えられる。

今までの契約解除のルールは?

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(画像=PIXTA)

現在の民法では、借主の責任でない原因で賃貸物件の一部が使えなくなった場合、残った賃貸物件の箇所だけでは、賃貸の目的を達することができないときには、借主は賃貸借契約を解除できるとしている。

例えば、ある人が一戸建ての賃貸物件を居住目的で借りていたとする。ある日、台風や災害などの不可抗力によって、寝室や浴室、台所など日常生活を営む上で必要なスペースが使えなくなった。

これによって、物件を借りて日常生活を送るという賃貸契約の目的を達成することはできなくなったことになる。従って、この場合には、借主から貸主へ賃貸契約の解除を申し入れることができると、現在の民法で規定している。

借主からの契約解除の申し入れを受けた貸主は、そのまま借主の言い分を受け入れ、契約を解除するか、使用不可能になった箇所を修繕し、借主が使える状態にするかを選択することになる。

賃貸物件は貸主の持ち物であり、破損原因は借主にないのだから、修繕義務は貸主にあるためだ。ただそうなると、現実的には、借主が賃貸契約の継続を望めば、破損した部分を修繕した上で、賃貸契約の目的が達せられるようにしなければならない。

また借主が賃貸契約を解除した場合でも、その物件の借主を新たに募集するのであれば、破損した部分を修繕しなければ、借り手が見つからないとことになる。

いずれにしても、現民法では、契約を継続するにしても、解除するにしても、破損原因が借主にないのであれば、貸主が修繕義務を負うことになる。

改正後の契約解除のルール

今回の民法改正では、契約解除の条件が変更された。

改正前は物件の一部が使用できなくなった原因を「借主の過失によらないこと」と限定していた。しかし改正民法ではこの点が削除されている。つまり、破損の原因は問われず、物件の一部が使用及び収益ができなくなり、残りの部分で賃貸の目的を達成することができなくなれば、賃貸契約を解除できるということである。

ただ、このように改正されると、借主にとってかなり有利な規定になってしまう。例えば、貸主の故意や重大な過失が原因で、賃貸部物件の主要箇所が破損されて、賃貸契約の目的が達成できない場合でも、借主から貸主へ一方的に契約解除の申し出ができるからである。

今回の民法改正で、契約解除の条件が変更された理由には、消費者保護と賃貸契約の目的の重視がある。

破損した理由は別にして、賃貸契約の目的を達することができないままに、賃貸契約を続けることは、消費者にとっては酷な話である。なによりも、契約の目的を達することができないまま、いたずらに賃貸契約を続けることは、契約というルールが形骸化してしまうことになると考えたのである。

もちろん、修理義務という問題は残るが、仮に借主の故意または重大な過失で賃貸物件が破損したのであれば、契約の継続、解除とは別に、借主が修理義務を負うとすれば、契約社会の秩序を維持できるのである。

改正のポイント1 残存部分で借りた目的が達成できるかどうか

まず今回の改正でポイントとなるのは、残存部分と賃貸目的との関係である。

上で説明したように、今回の改正では、残存する部分のみで賃貸の目的が達成できない場合に、賃貸契約の解除ができることになる。賃貸物件の中でどこが残存部分なのか、その部分のみを使用することで賃貸契約の目的が達成できるのか否かが重要なポイントだ。

例えば、賃貸物件に部屋が2部屋あってそのうちの1室が使用できなくなった場合であっても、その物件で生活するという賃貸の目的が当面達成できれば、借主が賃貸契約の解除を申し入れることはできないことになる。

また台所や浴室などが破損して修繕にはかなりの時間を要する場合、日常生活を送るという賃貸の目的を達成することができないことになり、貸主としては、借主からの賃貸契約解除の申し入れを受け入れざるを得なくなる。

ただ浴室が破損した場合でも、修理を行う間は代替案として銭湯を利用してもらい、契約の解除は撤回してくれるように、貸主が借主に要請することは可能だと考えられる。

一方、賃貸物件が飲食店の場合、厨房が破損すれば、飲食店の営業ができなくなることは明白である。従って、借主が貸主に契約の解除を申し出た場合には、応ぜざるを得なくなる。

このように使用できなくなったのは賃貸物件のどこの部分かは、残存部分の使用で賃貸契約の目的は達成できるか否かに結びついてくる。またそれによって、賃貸契約解除の可否にも直結してくる。

従って、破損した賃貸物件の部分と賃貸契約の目的との関係は、かなり重要なのである。

改正のポイント2 破損して使ったり収益を挙げたりできなくなったら解除できる

次に2つ目のポイントは、改正民法であえて破損によって使用及び収益ができなくなったと場合と規定している点である。

言葉の確認になるが、使用と収益を接続している「及び」は、「または」という意味ではなく、「さらに」という意味である。つまり、このとこによって、今回の民法改正では、賃貸物件の一部が破損したことで物件を使用したり収益を上げたりすることができなくなった場合に契約解除できると、解釈することができる。

この点だけ見れば、使用かつ収益が条件となり、賃貸物件は店舗などの業務用に限定されているように思える。居住用の賃貸物件で、収益を上げると解釈することはやや無理があるように感じるからである。

しかし、賃貸契約を解除する条件として「残存部分だけでは賃借した目的を達することができない場合」とある点にも注意したい。

賃貸物件を借りる目的として、業務用の場合はもちろん利益を上げることであるが、居住用の場合はその物件に住むことである。居住用の賃貸物件にも、住むという目的がある以上、この規定が居住用の賃貸物件を排除していると考えることはできない。

その点を何よりも象徴しているのは、今回改正されたこの規定には「賃借物」としか記載がなく、賃貸物件の目的に関する縛りがないことである。この文言からも、この規定が居住用の賃貸物件を含むことがわかる。

改正民法であえて「収益」という言葉を使っているのは、居住用の賃貸物件であっても使用できないことでそこに住む人は経済的損害を被っていると解すべきだと考える。

変更のポイント3 借主の修理義務

改正の3つ目のポイントは、借主の修理義務である。

今まで説明したように、現行の民法では賃貸物件の一部が借主の過失によらない理由で破損したとき借主から賃貸契約の解除を申し入れることができるとしていて、破損の原因を限定している。

しかし、改正民法では、破損の原因については全く限定されていない。つまり借主の故意または重大な過失によって賃貸物件の一部が破損し、賃貸契約の目的が達成できない場合でも貸主から賃貸契約を解除できることになる。

この点だけを見れば、貸主にとってかなり不利な改正のように思える。しかし破損した部分が借主の故意、または過失によって破損されたのだから修理する義務は当然借主にある。

つまり借主は、賃貸物件の一部が使えず賃貸契約の目的を達することができないことを理由に契約を解除できても、解約時に破損した部分の修理を借主の負担で行うことになるのである。もし賃貸契約時に支払った敷金以上の金額が必要になった場合には、退去時に金銭的負担をしなければならなくなる。

一方、借主が賃貸契約を継続したいと考えたときには、破損部分の修理を自分で行って、使い続けることになる。残存部分では賃貸契約の目的を達することができないほどの破損だから、借主が継続を希望する限りは、当然修理が必要となってくるはずである。

このように、貸主には一見不利のように思える規定ではあるが、借主の故意、または重大な過失については、貸主の修理義務が明確になっていくのである。

今回の民法改正で、賃貸物件の一部破損については理由を問われない。借主を保護した規定ではあるが、賃貸契約の解除を認めるものであるだけに、本当に残存部分で賃貸契約の目的を達することができないのか今以上に厳密に判断されることになる。(井上通夫、行政書士)


Source: 株式投資
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