住宅ローン控除 住民税も控除対象になる? 原則は所得税からの控除だが……
住宅ローン控除 住民税も控除対象になる? 原則は所得税からの控除だが……
住宅ローン控除は、住宅ローンを利用してマイホームを購入した際に活用できる減税措置である。住宅ローンの年末残高の一定割合が税額控除となる、非常に魅力的な制度と言える。原則として、所得税からの税額控除となるが、中には控除可能額が控除前の所得税額を上回り、控除しきれないケースもあろう。そうした場合、控除しきれなかった分は個人住民税から税額控除する事が可能である。年間の控除額をより広く活用できる制度であるが、その手続き方法や注意点について説明していこう。
住宅ローン控除は所得税からの税額控除が原則
住宅ローン控除とは、住宅借入金等特別控除と呼ばれる制度の通称であり、マイホームをローンで購入した場合に、その年末残高の一定割合に相当する金額が所得税から控除される制度である。
2021年までに住宅を購入して新たに適用を申請する場合、10年間、毎年の年末時点でのローン残高の1%が控除される事となる。各年の控除限度額は40万円(認定長期優良住宅等の場合は50万円)となっており、原則として所得税から税額控除される事となる。
年間最大40万円の税額控除は魅力的だが……
一般住宅を購入し、年末時点での住宅ローン残高が4,000万円以上ある場合、その年には40万円の税額控除を受ける事が可能である。年間40万円の税額控除と聞けば、非常に魅力的に感じるが、一度冷静に計算をしてみる必要がある。
住宅ローン控除による税額控除は原則として所得税からの税額控除である。自身の所得税額を計算してみると、実は40万円に満たない人も多いのではないだろうか。
年収800万円でも所得税額は40万円以下?
所得税額が40万円を超える人とは、どのような人であろうか。モデルケースを一つ提示しよう。
Aさんは35歳の会社員であり、額面年収800万円、専業主婦の妻と6歳になる子どもが1人いるとする。社会保険料は年額で115万円を納めている。所得税の計算を行う場合、各種控除額を計算し、所得税の課税所得を算出する必要がある。Aさんの控除額は次のようになる。
基礎控除……38万円(全ての納税者一律)
給与所得控除……200万円(660万円超1,000万円以下の場合、収入金額×10%+120万円)
社会保険料控除……115万円(支払った社会保険料)
配偶者控除……38万円(配偶者の年間所得が0円と仮定)
Aさんの所得税の控除額は合計で391万円となっており、所得税の課税所得は409万円と計算できる。
所得税は累進課税となるが、330万円超695万円以下の場合、20%の税率が適用され42万7,500円の控除額が与えられる。Aさんのケースに当てはめて計算すると、所得税額は次のように計算される。
409万円×20%−42万7,500円=39万500円
このように額面年収が800万円であっても、所得税額は40万円に満たないケースもある。所得税額は世帯構成や社会保険料の支払金額等、各個人の状況によって大きく変わる為、額面年収が800万円以下の場合でも所得税額が40万円を越えるケースもあろう。一方で、今回のモデルケースでは計算を簡素化する為に、生命保険料控除や医療費控除等は考慮しておらず、額面年収が800万円を超えていても、所得税額が40万円以下となるケースもあり得る。
会社員の場合、所得税は源泉徴収される為、意識する事も少ないだろう。今一度、自身の所得税額を確認したい。
所得税で控除しきれない分は個人住民税から控除
さて、所得税についての説明を行ってきたが、住宅ローン控除の話に戻ろう。仮にモデルケースのAさんに年末時点で4,000万円を越える住宅ローン残高がある場合、所得税から40万円の税額控除を受ける事が可能である。
ただ、Aさんの所得税額は39万500円であり、9,500円は所得税から控除しきれない事となる。その場合に、控除しきれなった9,500円は個人住民税から控除が行われる。
住宅ローン控除は所得税からの税額控除が原則であると説明してきたが、厳しい経済状況下において個人の住宅購入を活性化させる為、住宅ローン控除における負担軽減の実効性をより高める必要があった。そこで、「平成21年度税制改正」によって定められたのが、所得税で控除しきれなかった税額控除分を個人住民税へスライドさせる税制である。所得税に加え、住民税からも税額控除される事により、住宅ローン控除の税額控除額をより有効に活用できるようになった。
個人住民税からの控除を受ける場合、特別な手続きは不要
住宅ローン控除で所得税から控除しきれなかった金額があり、個人住民税からの控除を受けたい場合はどのような手続きを踏めば良いのだろうか。
個人住民税からの税額控除を受ける場合、特別な手続きは不要である。基本的に、所得税で控除しきれない金額があれば、自動的に個人住民税からの控除が行われる。
これは、個人住民税の税額を計算し、徴収する市区町村が、税務署や勤務先から住宅ローン控除を受ける人の申告情報を受け取っている為である。確定申告や源泉徴収の記録を市区町村も把握する事により、特別な手続き無しに、個人住民税からの控除が行われる。
もちろん、そもそもの住宅ローン控除に必要な確定申告や年末調整の手続きが必要な事は言うまでも無いが、その他の特別な手続き無しに、住宅ローン控除の控除額を個人住民税にまで適用できる。
控除残額全てが個人住民税からの控除に適用されるわけではない?
住宅ローン控除における個人住民税からの税額控除であるが、個人住民税からの控除額には制限がある点には注意したい。
住宅ローン控除の対象となるマイホームへの居住年が2014年4月から2021年12月の場合、個人住民税からの控除額は次のいずれか少ない方の金額となる。
・住宅ローン控除の控除可能額の内、所得税から控除しきれなかった金額
・所得税の課税所得金額の7%(上限13万6500円)
つまり、これから2021年末までにマイホームを購入して居住する場合、個人住民税からの控除額は最大で13万6,500円となる。所得税から控除しきれなかった金額が13万6,500円を超える場合、超えた分の金額は控除される事無く手続きが終了してしまう。
また、2009年1月から2014年3月までの間にマイホームを購入して居住している場合には、個人住民税からの控除額は次のいずれか少ない方となる。
・住宅ローン控除の控除可能額の内、所得税から控除しきれなかった金額
・所得税の課税所得金額の5%(上限9万7,500円)
購入したマイホームに居住するタイミングによって、個人住民税からの控除額が異なってくる。なお、これから2021年末までにマイホームを購入する場合でも、消費税が8%か10%以外の税率となる場合には、2009年1月から2014年3月までに居住を開始した場合と同額の控除額となる。
住宅ローン控除における個人住民税からの税額控除においては、控除限度額がある事を忘れてはならない。
税額控除は翌年の個人住民税に反映
住宅ローン控除による所得税からの税額控除は確定申告や年末調整の対象年に支払うべき所得税から控除が行われる。確定申告によって所得税を納める場合には、税額控除を考慮した上で計算された所得税額を納付すれば良い。また、会社員で源泉徴収されている場合には、確定申告や年末調整によって、既に支払った所得税から控除額分が還付される事となる。
一方で、個人住民税からの税額控除がある場合には、翌年の個人住民税額への反映となることを理解しておきたい。個人住民税からの税額控除では、既に支払った個人住民税の還付ではなく、翌年の住民税額の減額という形で控除が行われる。
先程説明したように、個人住民税からの税額控除は特別な手続き無しで行われる。個人住民税からの税額控除がある場合、毎年5〜6月にかけて発行される「住民税決定通知書」に控除額が反映されているかの確認を行う必要がある。「住民税決定通知書」は会社員の場合には勤務先から手渡され、個人事業主等の場合には自宅に送付される。各自治体によって名称は異なるが、住民税額の通知書を確認するという事を覚えておきたい。
また、確定申告等の手続きが遅れ、個人住民税額の決定までに住宅ローン控除の申請が間に合わない場合、個人住民税からの税額控除は受けられない可能性がある。住宅ローン控除の申請手続きは必ず期限内に行うようにしたい。
個人住民税に関する窓口は市区町村役場の税務課に
住宅ローン控除における個人住民税からの税額控除であるが、不明点等を相談する窓口にも注意が必要だ。
所得税は国税であり、国税庁が所管している。一方で、個人住民税は地方税で、その所管は総務省となる。つまり所管省庁が異なる為、その問い合わせ窓口も異なるということだ。住宅ローン控除は国税と地方税をまたいだ制度設計となっており、相談や問い合わせの際にはその内容を確認し、適切な窓口を選択する必要がある。
住宅ローン控除は国税である所得税からの税額控除が原則であるが、特例措置として、控除しきれなかった金額に個人住民税からの控除が認められている。住宅ローン控除の一般的な質問や所得税からの税額控除に関する問い合わせは税務署へ、個人住民税からの税額控除に関しては居住地の市区町村役場の税務課に問い合わせよう。
住宅ローン控除は一般住宅の最大控除額が40万円であり、積極的に活用したい制度である。一方で、所得税額が控除可能額を下回るという人も多くいるだろう。個人住民税からの税額控除は住宅ローン控除の効果をより高める事のできる特例制度となっている。自身の住宅ローン控除における控除可能額と所得税額や住民税額を把握し、控除額を余す事無く活用できる方法を探るべきだろう。(ZUU online編集部)
Source: 株式投資